STORY
第12話 魔神の寝床 前編(1)
トルエノの頼みを受け、砂漠の遺跡に向かうミオ達一行。
その姿は砂漠の手前に位置する山道にあった。
「そう言えば宿屋で借りた服、譲って貰ったんだって?」
「うん、どうせ着る人も居ないからって・・・」
「良かったな」
「流石にあの服じゃ戦えないから部屋着にさせて貰おうかな・・・」
「ところで二つ返事で砂漠に行くこと決めて良かったのか?」
「きなくさい場所みたいだったけど・・・」
「本当に元々行こうと思ってたからね」
「それより・・・ナイトは本当に一緒に来る気なの?」
そう尋ねられたナイトは当然のように答える。
「来る気がないならここまで来てない、そんなこと分かってるだろ?」
「確かに」
「・・・じゃあ一つだけ約束して・・・」
「貴方は決して死なないこと・・・」(そうでないと・・・私はあの人への誓いを果たす事ができない・・・)
「貴方はって・・・?」
そう言った時だった、カサカサと揺れた草むらから謎の影が飛び出してきた。
「!?」
「人間・・・?、山賊か!?」
「動くな!」
そう声を荒らげミオの首に背後からナイフを突き付ける少年、そんな状況にも関わらずミオは冷静に尋ねている。
「人間が私に用があるの・・・?」
「金目の物を全部置いていけ!」
「悪いが金目の物なんて持ってないし、とりあえずここは見逃してくれないかな」
「何もせず引いてくれたら通報も何もしない」
「そもそも旅人を襲ったって大金が手に入る確率は低い」
「金がないって言うならこの女を貰って行くからな!女子供だったら高く買い取るって言われてんだ!」
「え・・・売られるの?」
「あの・・・悪いことは言わないからその考えは改めた方がいい」
「何偉そうなこと言ってんだ!こっちには人質が!」
そう怒気を強めた少年だがミオに手首を軽く捻られ抜け出されたことで山賊は呆気に取られている。
そのわずかな間に地面に激しく叩きつけられるのだった・・・。
「!?」
「人質は自分より弱い相手じゃないと無理、これに懲りたら山賊なんてやめて普通に働いた方がいい」
そう言われた少年だが投げ飛ばされた衝撃のためか動けずにいる。
「だからやめた方がいいって言ったのに・・・」
「・・・」
「・・・少しぐらい・・・心配してくれても・・・」
そう小声で呟くミオ。
「え・・・!?」
「・・・なんでもない」
「ミオなら山賊に負ける訳ないかなって・・・」
「それは当然・・・」
「だ、だろ?」
そんな会話をしている時だった・・・。
「オレは・・・海賊だ!」
「・・・!???」
「ここ・・・山だけど・・・?」
「海賊・・・?」
「どゆこと?」
困惑しながら話を聞くことにしたミオ達・・・。
20分後・・・。
「・・・つまり元々海賊だったってことか」
「海竜が暴れてて船が出せなくなって」
「海での生活を泣く泣く諦めたって・・・」
「と言うか・・・賊なのは変わらないのね・・・」
「生き方変えられないのかしら・・・」
「でも海竜が暴れてるって何でなんだろうな」
「確か別の地域でも水にまつわる生き物が急に暴れ出したって聞いた気はするけど」(まさか大洪水の・・・?いや、そんな訳・・・)
「もしかして世界的な話なのか?」
「八岐大蛇も山神であり川の神だから水要素はあるけど・・・」(あれは・・・別件か・・・)
「ヒュドラも元々凶暴だったし、たまたま・・・?」
「報告に行く時にでもトルエノにでも聞いてみたら?」
「でっかい国だから情報ぐらい集めてるかも知れないだろ」
「そう言えば・・・、さっきの山賊?いや海賊はどうしたの?」
「縛り上げてヴァンにレイテルまでデリバリーして貰ってる」
「見逃してくれなかったからキッチリ突き出しとかないとな!」
「ヴァンも忙しいわね・・・」
「フェダリアも見てくれてたんでしょ?」
「ヴァンが見れない時はヴィドゥルが手伝ってくれるってさ」
「ヴィドゥルすごい嬉しそうにはしゃいでそう・・・」
「でもなんか・・・大鷲と合成獣に囲まれた絵面がちょっと怖い気が・・・」
「・・・海賊・・・大丈夫かな・・・即死刑にならないといいけど」
「野放しにはできないし因果応報ってことで・・・」
「そうね、ここで気にしても仕方ないし今は目の前の依頼に集中しないと」
そうやって再び砂漠を目指し山道の先へ歩み始めるのだった・・・。
第12話 魔神の寝床 前編(2)
道を進むにつれて草木は減りゴツゴツとした岩と砂が少しずつ増えていく・・・山を下り切った頃には日も完全に登りきっていた。
足元には一面砂が敷き詰められ吹き付ける風すらも熱く、照りつける太陽と共に体力を奪っていく。
「・・・予想以上に、熱い・・・」
「日陰でも熱いな・・・砂も焼けてるから地面からの熱気もすごい」
「・・・死ぬ・・・燃えそう、焦げそう」
「どうしても水が足りなくなったらサボテンから水分を補給しよう・・・」
陽炎により目に映る景色はゆらゆらと揺れている・・・そんなゆらめく風景の中にうっすらと荷車のような物を見つけ近寄ろうとした時だった足元から伝わる振動と地響きに思わず足を止める。
「!??・・・なんだ?地震・・・?」
「いや・・・地震にしてはピンポイント過ぎるこれは別の・・・」
困惑している一行の元へ荷車らしきものから離れた影が近づいてくる。
「?」
「あれは・・・人じゃないか?」
駆け寄ってくる人影に目を凝らしているとその影の背後にさらに大きな何かの影が砂を巻き上げ現れる。
「なんか増えた・・・!?」
「って言うかこの間も似たようなシルエットを見たような・・・」
「まぁ・・・取り敢えず頭は一つみたいで良かったな・・・」
「化け物に出会うのは良くないけど・・・」
一行の目の前に姿を現したのはムカデのように多くの足を持ち、顔はどことなく竜のを思わせる巨大な生き物だった・・・。
こちらに向かってくる人影の後ろを砂を泳ぐように直進してくる謎の生き物。
「百足竜的な・・・あの足はいつ使うのかしら・・・」
「・・・ってあの人こっちに来てるけどこれ完全に巻き添えコースだよな」
「た、助けてくれー!!」
「あの竜を止めるしかなさそうね・・・」
「ナイトはあの人がこっちに来たらどっかの影にでも隠れてて・・・」
「え?どうする気なんだよ?・・・・ってもういないし・・・」
「そう言う人だから・・・」
「ってチェリー・・・また置き去りか?」
「置き去りって言うな!」
そんな2人を置き去りにしていったミオの姿は迫り来る百足竜を見下ろす岩陰にあった・・・。 百足竜が通るタイミングで飛び降り一撃を喰らわせたミオだがやはり仕留めることは難しかった・・・。
「この竜・・・目が・・・?」
その間に逃げて来ていた男性を保護したナイトは小さな岩陰に身を隠す。
一撃を加えたミオが着地すると同時にすかさずその方向に大口から放たれる風が砂を纏って飛んでくる。
「なんかあの竜・・・ものすごく空気吸い込んでないか・・・?」
大きく口を開け多くの空気を取り込んだ百足竜はそれまで使っていなかった無数の足を広げ砂に突き立てる。
そんな時だった少し離れた大きめの岩山から謎の爆発音が響くと同時にナイト達の前に現れたミオ。
「ミオ!?・・・いつの間に」
「し、静かに・・・」
「・・・!?」
そんなやり取りをした次の瞬間に解き放たれたブレスにより激しい風が吹き荒れ多くの砂が宙を舞った・・・。
思わず一同は息をのみ、その場で様子を静かに伺っている。
暫くキョロキョロと辺りを警戒していた百足竜は静かに砂の海へ潜り姿を消した・・・。
「・・・行った?みたいね」
岩に背をつけ様子を確認するミオ。
「なんだ・・・さっきのブレス、大砲か何かか・・・?」
「もっと大きな岩に隠れとかないと当たったら即死だったな・・・」
「いや・・・岩ぐらいじゃ無理かも知れない」
そう言いミオが見つめる先にはブレスにより大穴の空いた岩山だった・・・。
「・・・!?」(トンネルみたいになってるし・・・)
「・・・変に隠れない方が良かったのか・・・?」
「安心して?隠れるところがもう無いし」
「それ、どの辺が安心要素!?」
砂には百足竜の突き立てた足が無数の溝を残している。
「反動でかなり後ろに下がってる」
地面を観察しているミオ達に声をかける商人らしき男性。
「先程は助けて頂きありがとうございました」
「・・・ところで」
「貴方は何故ここに・・・砂漠に商売相手なんてそうそういなさそうだけど」
そう男性に尋はねるミオ。
「仕入れも兼ねてと言いますか・・・砂漠でしか手に入らない物がありまして」
「・・・?・・・砂漠で買い付け?それとも採取かしら?」
「採取です、珍しい鉱石や植物がありますので」
「そうなのね、採取は終わったところなの?」
「いえ、まだですが・・・」
「・・・だとしたら可笑しい・・・、積荷が多過ぎるの」
「・・・え」
「ここに戻る前に少し覗いて来ちゃった・・・って言うかさっきの奴の攻撃で若干中身も出てるし・・・」
「これは・・・酒か・・・?アルコール臭い気もするし」
「触らない方がいい、樽の方は酒だと思うけどそれとは別に小瓶とかも割れてるから」
「流石に取引の予定無しに砂漠にこんな量を運搬する事はないでしょう?」
「誰に卸しているの?」
第12話 魔神の寝床 中編(1)
そう詰め寄るミオだったが商人は足元に何かを投げ捨てると、パチパチパチッと言う何かの爆発音が響き渡った・・・。
それと同時に一目散に逃げ出す商人。
「爆竹・・・!?」(何んで爆竹なんか・・・?)
「・・・まずい」
「ん!?、まさか今ので怪我でもしたのか?」
「いや、怪我はしてない」
逃げ出した商人を追いかけようとしたがそんな一行の足元に地響きがする。
「やっぱり・・・」
「・・・まさかこれって・・・さっきの」
「時間がないから先に説明する」
「さっきの竜は目が無いの、だから敵の動きとかは音で探っているみたい」
「特に目がない分、聴覚はすごく発達しているとは思っていたんだけど」
「爆竹の音を感知してここに向かって来てるのか・・・」
「一度警戒された以上、下手に足音を立てるだけでも追跡されかねないし」
「それで相手の大技を誘導するために爆発音を使ったのか・・・」
「そう、自分の足音より大きな音を立てたかったからね」
「でも爆発なんて、積荷に爆弾でもあったのか?」
「いえ、あれは起爆札って言うもの」
「旅に出る前に貰ったんだけど、さっき使ったからあと1枚しか残ってない」
「え・・・ピンチじゃん」
「どうにか有効活用するしかないわね」
「この積荷、使っちゃダメかな?」
「正直悩ましいけど・・・盛大に置き土産された所だし」
「何より本人が放棄して行ったような物だから使えるものは使わせて貰いましょう」
「お、そう来なくっちゃ!」
「完全に悪巧みしてるノリじゃん・・・」
「そう言うからには何かやりたい事があるんでしょ?」
「あぁ、この手付かずの酒とその最後の起爆札ってやつが使いたいんだけど」
「・・・?まぁ、何となく分かったけど酒にも札にも限りがあるから失敗はできない」
そう言ってる間にも地響きが大きくそして近づいてくる。
「そろそろおいでになりそうだけど待機場所はどこがいいの?」
「どうせ酒は重くてそんなには持てないからその付近で」
「・・・ナイトの作戦を信じる・・・でも何かあっても必ずフォローするから」
「信じてくれるのにフォローの準備もするんだ・・・」
「当然・・・物事に100%はない」
「げ、現実的・・・」
「それに成功したとしてもその後に不足の事態が起こることだってある」
「そんなこと言ってる間にもう来ちゃうよ!!」
「どうするの?」
「1つは俺がアイツが一部吹き飛ばしたあの崖の上に運ぶよ」
「その間の時間を私が稼げば良いのよね?」
「あと札は先に渡すけど、うっかり起爆しないようにね」
「それは俺もやりたくないな・・・」
そう言い手頃なサイズ(5Kg)の樽を担ぐナイト・・・。
「この鈴をを使う日が来るとは・・・貰った時は鈴なんて使い所が無いと思ってたけど」
ミオが手にしているのは共振の鈴というもので近くに同じ共振の鈴があると共鳴して鳴り、さらには数に応じて少しずつ大きな音になっていくという物である。
「その鈴、スイレンがくれたやつ?」
「そう、特殊な封印のされたこの箱でしか音を抑えることができない鈴」
「因みに戻し方は聞いてない」
「こわっ」
地響きがさらに大きくなり、足元に激しい揺れを感じすぐさま鈴の付いたクナイを荷車に残された酒樽に投げる・・・クナイが刺さった瞬間に少し大きい鈴の音が響いた。
その酒樽の真下から押し上げるように飛び出した百足竜はそのまま酒樽を粉砕し大量の酒を浴びている。
滴り落ちた水分は灼熱の砂漠であることも手伝ってかすぐに蒸発し湯気のようなものを出している。
砕け落ちた樽の木片が落ちると同時に鈴の音が再び響きそれに共鳴するようにミオが持つ鈴も音を鳴らす・・・その音に釣られ竜の顔がミオへ向く。
ミオは樽の破片からクナイを回収しすぐに竜の近くの地面へ円を描くように投げていく。
周囲で鳴り響く複数の鈴の音に向けるべき頭の方向を悩んでいるように見える百足竜・・・。
その頃、ナイトの姿は崖の頂上にあった・・・。
百足竜は周囲のクナイを薙ぎ払い再び砂に潜っていく・・・。
頂上にいるナイトの姿を視認したミオはその辺りに転がっているクナイを回収し崖の方に駆け出す。
「・・・」(追って来てくれれば良いけど・・・)
そう言い走るミオの足音と共に鈴の音が響く・・・。
しばらく走っていると後方から地響きが迫って来ているようだ。
「・・・」(掛かった!)
崖を軽く登りながらクナイの一部を付近に置いていく。
「・・・」(でも・・・あの大技だけはやめてよね・・・)
頭を覗かせた百足竜の口から砂ブレスが放たれる・・・。
ブレスは近くに被弾し少し崖を削った。
高い位置に差し掛かる頃、今度は自ら崖に無数の足を使い登って来る。
「何あれちょっと恐い」(ちゃんと足として使えるのね)
そう言いながら崖上に到達したミオ。
「流石の立ち回りだな」
「でも悪い・・・囮なんて危険な役をやらせてしまって・・・」
「別に、何より樽を持ったまま崖を登る方が私にはキツイから」
「それにすぐに砂に潜られたんじゃ効果が薄くなるし、これがベストだと思う」
「あと・・・もうそろそろお出ましになりそうよ・・・」
崖の上に顔を覗かせた百足竜、その頭の上を鈴を持ったミオが飛び越え、追うようにブレスを吐いた直後だった、その開いた大口に酒樽を叩き込んだナイト。
「たらふく召し上がれ!」
その樽をバリバリと噛み砕く百足竜だったがその流れ落ちる酒は起爆札の発動の際に起きた火花により引火し燃え上がる。暴れ周り砂漠へ落下した百足竜は反撃をしようとブレスを放とうとするが吸い込んだ酸素により一層体内が焼ける・・・。
それから暫く暴れたあと、砂に潜り地響きはしなくなった・・・。
「・・・逃げた?・・・それとも」
第12話 魔神の寝床 中編(2)
「どっちにしろ、暫くは安全だろ」
「そうね・・・今のうちに遺跡に向かいましょうか」
「道中で水も確保できれば良いけど・・・」
その数時間後・・・運よくオアシスを見つけ水を確保できたが夜になり辺りが暗くなると昼間の灼熱の砂漠は一変し激しく冷え込み始める。
「夜の砂漠は冷えるとは聞いてたけどまさかここまでとは・・・」
「寒暖差が激しすぎて過酷な環境って言葉がピッタリね・・・」
「生活できる気がしないから早めに調査して戻らないとね」
「そう言えばさ、ナイトはヴァンと結構離れて行動してるけど武器とか普通に出せるの?」
そう不思議そうに尋ねたチェリー。
「え?一応出せるし風の力も使えるけど」
「なんか精霊の力の影響範囲は個人差があるから私の場合はそれぐらいの距離ならば問題ないとか言ってたな・・・」
「・・・」(なんか・・・ヴァンの「お前の守護範囲と一緒にするな」って言葉が聞こえる気がする・・・)
「ムキィィーーーーー」
「え!?急に怒ってる?」
「大丈夫、気にしないで」
「少し被害妄想が入ってるだけだから・・・」
「それは大丈夫なのか・・・?」
「そろそろ見えてきた・・・」
遺跡の入り口には松明が灯してあり、そこだけ明るく照らし出されている・・・。
少し離れた位置から入り口の様子を伺う一行。
「松明があるって事は、やっぱり人の出入りがあるって事だよな」
「だけど・・・特に人の気配は感じない」
「待ち伏せとか・・・?」
「隠れているにしても何かが違うような」
「でも、中の構造も分からないし注意して入るしかない」
辺りを警戒しながらゆっくりと遺跡内部へ足を踏み入れた一行だがどれだけ歩み進めても人の気配すらない・・・。
「何もいない・・・?」
「と言うか罠らしい物も特にないな・・・」
「何だか既に全て解除されている感じ、先客がいたのかな・・・?」
「見てみて!この先すごく開けてるよ」
「・・・・・・何だここ・・・」
「・・・すごい瘴気ね怨念すら取り込んでる・・・これは何が出てもおかしく無い・・・」
長い道を抜け、足を踏み入れたのは円形の部屋であり中心部には数本の細い橋で結ばれた同じく円形の足場が繋がっていた、その細い橋から下を覗いてもどこまで続いているか分からない奈落が広がっている。
「祭壇的なものかしら・・・でも健全な祭事とは思えないけどね」
「ところどころ赤黒い汚れがついてるよ・・・」
「祭事に牢獄なんていらない・・・誰が使ってたか知らないけど碌な奴らじゃないのも間違いないな」
「決闘場でも兼ねてるのかと思う造りね、中央は逃げ場も無い感じだし」
祭壇らしき中央の足場に辿り着いたミオは奥に置いてある石板に駆け寄る・・・。
「どうかしたのか?・・・石板・・・?」
「でも何書いてるか分からないな・・・」
「悪しき神の体、六つに分かち・・・地に封ず・・・」
「もしかして読めるのか・・・!?」
「一応ね・・・」
「どうやらこの場所には左腕が封じられてたみたい」
「ひ、左腕!?ずっと・・・腕を?」
「正確には切り分けた時に左腕が変化した斧の事みたい」
「斧・・・ね、何のために持ち出したのかな・・・」
「オスクリダっていう訳の分からない人達もいなかったし一度報告に戻ろうか・・・」
そう言い帰ろうとした時だった・・・激しい揺れが遺跡全体を襲う。
「!!?」
「今度こそ地震か・・・!?」
「いや、どうやら違うみたい・・・」
天上の一部が崩壊し巨大な竜の骨がカタカタと音を立てながら広間に突っ込んできた。
「骨が動いてる!!!!?」
「さっきの百足竜さんが燃えすぎて骨になっちゃったのかな!?」
「それはない、骨の時点でさっきの百足竜より大きいし」
「どっちにしろ筋肉無しでどうやって結合して動いてるんだ!?」
「着眼点そこなのね、まぁ気になるけど」
「早く逃げないと骨の友達になりかねない」
駆け出し中央の足場から離れ広間の出口を目指す一行だったが骨竜の一撃でその出口が塞がれてしまう。
「骨なのになんかめちゃくちゃ考えてるし」
すかさず投げたナイトの槍は骨竜の背骨付近に当たり体勢を崩した骨竜、しかし真っ暗な大穴に体の一部が滑り落ちそうになった骨竜はよじ登ろうと大暴れしている。
その衝撃からかさらに天上の一部が崩壊し大量の砂が流れ込んできた。
「流砂まで!?いくら何でも暴れすぎだろ!?」
「・・・違う!?」
「あの竜、最初からこっちを道連れに下に・・・!?」
その後の崩落に巻き込まれ一行は骨竜と共に真っ暗な地下へと落下していまうのだった・・・。
砂の山の上で目覚めたナイトはすぐさま付近を見渡すも見える範囲にミオの姿は無い。
「何処に?」
上層から降り積もった砂がクッションになり無事だったが、どれくらいの高さから落下したのかそれすらも分からない・・・。
しかし、そんな時だった、カタカタと聞き覚えのある音が聞こえてくる。
「この音は・・・!?」
第12話 魔神の寝床 後編(1)
音のする方へ歩みを進めると奥の方で蠢いている骨がうっすらと見える。
「・・・ダメね、全く手応えがない・・・」
「ミオ!、無事だったのか!」
「あ・・・ナイト」
「もちろん無事」
「私が頑張って起こさなかったら噛み砕かれたかも知れないくせに〜」
「えっ・・・!?」
「余計なことは言わなくていい・・・」
「と、ともかくこの骨の生き物は何をしても意外と元気なのよ・・・」
「元気な骨ってなんかすごいな・・・」
「見ての通り下半身は崩落の影響で動けなくなってるけど、残りの頭の骨が厄介で攻撃的なの」
「多少の損傷だと骨同士が集まって元の状態に戻ってしまう・・・」
「でも動けないんなら無理に倒さなくても良いんじゃないか?」
「それはそうなんだけど、あいつの首の攻撃範囲に壊れた壁があるでしょ」
「少し光が漏れてるから何があるのか確かめたくて」
「なるほど、確かに上に這い上がるのはかなり厳しそうだし別ルートは必要そうだよな」
「・・・つまり口が使えなければ良いんだよな・・・?」
そう言うとナイトの手元に巨大な大剣が姿を表す。
「アイツの口の強さに負けないぐらいの強度を持った剣なら・・・」
「!!?・・・大剣?」(いつの間にそんなものまで使えるように・・・?)
ナイトは飛び上がり大きな剣を骨の竜の頭に思いっきり突き立てる。その後離れる際に軽く捻りを加え斜めに刺した事により引っ掛かり口が上手く開かなくなった骨竜。
口を開けようと暴れる骨竜の頭が激突し壁が崩がれ落ちた。
「結構・・・、荒技に出たわね・・・」
「誰の影響なんだろうね・・・」
「さぁ・・・、こっちをみないで?チェリー・・・」
「ともかくナイトのお陰で道もできたし骨竜の動きを見ながら進んでみましょう」
隙を見て瓦礫を乗り越え壁の向こうへ進んだミオ達・・・。
「・・・ここ、上の遺跡の年代から考えるとかなり綺麗じゃない・・・?」
「明らかに人の手が入ってるな・・・しかもつい最近まで使われてた感じだ」
「何かの研究所かな・・・?変な試験管いっぱいあるよ」
「チェリー、触らないでね」
「・・・!?わ、わかってるよ」
「砂に囲まれた砂漠で後から地下を作るのはかなり手間がかかりそうだけど・・・」
「いや、この空間自体は昔からあったみたいだ・・・本来の石壁の上から別の塗料で補強してある・・・」
「だけど一体何の研究・・・」
見慣れないものが大量に置かれた通路を抜け、辿り着いた部屋では大量の紙が散乱している・・・。
「研究資料とかかな・・・手分けして少し調べてみよう」
「何か分かるかも・・・」
散乱した紙に目を通していく・・・。
「よく分からない文字がいっぱいだよ・・・」
「確かに専門用語みたいなのも多い・・・でも遺伝子の形質や生物の習性とかの記述も結構ある」
「あと合成獣の生成方法・・・ここで研究してたのは間違いなさそうね」
「・・・これは・・・?」
ナイトは手にしたノートを熱心に読んでいる・・・。
「・・・?」
「どうしたの・・・?・・・随分熱心だけど・・・」
第12話 魔神の寝床 後編(2)
「いや、ここの資料は殆どが動物に纏わるものばかりだっただろ?」
「でもこれは・・・人に関する事みたいなんだ・・・」
「実験の観察記録って書いてあるんだけどさ・・・」
「幽閉した上に棘のついた鉄枷をはめて血の採取と傷の治りの確認をしてたって・・・これもはや拷問だよな」
「・・・」
「それにさ・・・掠れてるんだけど被験者名の欄にミ⚪︎⚪︎・G・フロー⚪︎的な名前が書いてある気がして・・・」
「ミオのファミリーネームってフローラだったよな・・・?しかも特殊な血を持ってる・・・」
「そこはフローラじゃなくてフロートとかかも知れないじゃない?」
「それに、フローラだとしても結構メジャーな名前だろうしね」
「この傷の治るのが早いって言う特殊な血は・・・?」
「その時にたまたま似たような血を持った生き残りがいたのかもね・・・」
「何にしても読み手があまり気に病む事じゃない、ここで精神弱らせると瘴気の影響でおかしくなるわよ・・・?」
「・・・」(前にトルエノも気になる事言ってたしな・・・)
ナイトがそのノートを仕舞い込んだ時だった・・・さらに奥の方からパリンっとガラスが割れたような音が聞こえてきた・・・!
「こんな場所でモノが割れるなんて良くない想像しかできない・・・けど・・・」
「一応確認した方が良さそうね・・・」
静かに奥へ通じる扉を開けるミオ・・・。
その通路には合成獣の入ったケージや割れたガラスが散乱している。
「・・・あれは?」
通路の奥から近づいてくる影。
そこにあったのは翼を持つ蛇の頭を咥え引き摺りながら歩く大きな狐だった・・・。
「ん?其方たちは・・・!?」
「・・・見たところこの施設の人間ではなさそうじゃのぉ?」
「めちゃくちゃ普通に話しかけられた・・・!」
「何じゃその顔は・・・この世界では喋る獣などごまんとおるじゃろ?」
「ミオ、あれは精霊なのか・・・?それとも別の何か?」
「それが精霊と似たような気配の中に少し違う気配もしてて・・・」
「もしかして合成獣の研究結果なのか・・・?尻尾9本あるし、宝珠まで首に着けてるし」
「誰が寄せ集めの獣じゃ!?こんな立派な九尾の狐を目の前にして!」
「妾をこのような紛い物と一緒にするでないわ!」
そう言い地面に投げ捨てた蛇の合成獣をバシバシ前足で叩いている・・・。
「ところで・・・お主は角はもたぬのじゃな・・・?」
そうミオに顔を近づけ尋ねる。
「角・・・?そんなもの生えたことないけど?」
「ほうほう・・・これはなかなか興味深い人の子じゃのぉ」
ナイトとミオの匂いを交互に嗅ぎながら歩き回る九尾の狐・・・。
「なんか気に入られてるのか?」
「そうじゃ!、妾は今からこの施設から出て行こうと思っておったところじゃ」
「出れずにおるなら一緒に外に出るのを手伝ってやろうではないか」
「いや・・・でも知らない狐について行ったらダメって昔言われたことあるからな・・・」
「何じゃそれ・・・あまりに限定的すぎる状況ではないか?」
「ええい、知らないのがダメなら名乗ってやろうではないか」
「妾はたっ・・・いやこの地域ではレアと呼ばれておる」
「象徴名はアナザー」
「アナザーってもう一つのって言う意味でしょ?」
「何がもう一つなの?」
「それは知らん」
「え?」
「ここに来た時にその名前が与えられただけじゃ」
「どういうシステムなんだろう・・・」
「で、どうするのじゃ?来るのか?来ないのか?」
「言っておくが出口はないぞ?」
「それはどう言うこと?」
「ここにおった変な黒フードを妾の術で燃やしておったらあちらが火事になってのぉ」
「長居すれば酸欠で人の子は長くは持たぬと思うぞ?」
「嘘じゃないだろうな・・・」
「待ってナイト・・・向こう側から本当に黒い煙が!!」
「嘘だろ!?本当に燃えてるのか?」
「だから言ったではないかぁ・・・!?」
「地下だから元々の酸素量が多くは無いし火の周りも抑えられそうだけど」
「同時に私達の吸える酸素も目減りしそうね・・・」
「扉を開ければ酸素を取り込んだ爆風で死にかねない・・・」
「これはついて行くしかなさそうね」
「でもどうやってここから出るんだ?」
「要は扉を使わずに外を出れば良いのじゃろう?」
「・・・???」