STORY
第10話 愚者の道 前編(1)
残された道を進む事を心を決め足を踏み出したミオ。
その後ろから重さのある足音が響いてくる・・・。
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「・・・あの魔族の位置・・・」(切断された箇所)
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「頭の部分は考えなくても良い・・・問題は」(足元と胴体部分)
そう考えてる間に壁の薄い溝から微かに灯りを反射し光る何かが見えた・・・。
回転し始めた刃は下段、中段、上段でそれぞれ時間差があるようだった。
下段と中段の刃の間を決死の覚悟で潜り抜けたミオだったが着地しようとした地面に不自然に穴が一列並んでいる・・・その光景にすぐさま手を付き素早く前転するミオ。
その足が通り過ぎた直後に勢いよく槍が穴から飛び出してきた・・・。
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「危なかった・・・」(殺す気満々な造りの場所・・・)
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「ギャルルゥゥ」
飛び出した槍によって檻のようになっている向こう側から魔族が手を伸ばしている・・・。
どうやらミオが通り過ぎた後に刃を叩き折り追って来たようだ。
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「・・・長く持ちそうには無い」
その場を後にし暫く歩き進めるミオは開けた空間に出た。
辺りを見渡しながら部屋の中央に差しかかった時だった・・・。
ガタンっと音をたて出口と入口が閉ざされてしまう。
部屋の壁にも何とも嫌な予感の過ぎる穴が無数に空いている・・・。
すると辺りからギリギリという音が響いたかと思うと壁から何かが飛び出し腕を掠る。
思わず目で追うミオ、その目に映ったのはカランカランと音を立て地面を滑るナイフだった・・・。
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「・・・ナイフ?」(どんな技術してるのよ・・・)
そのナイフの重さでなのか・・・何かの仕掛けが作動し四方八方からギリギリと言う音が響き渡る・・・。
そんな中ミオが具現化したのは桜模様の扇子だった・・・。
扇で仰ぐ度に花びらが部屋を満たしていく・・・。
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「天崩し・・・!」
そう言い舞うのと同時に一斉に打ち出されるナイフ・・・しかしそのナイフは周囲に漂っていた思念体の花びらに刺さり止まっている。
その後ミオが扇をパチッと閉じると漂っていた花びらがふっと消え、止まっていたナイフが次々と地面へと落下する・・・。
そんな中、唐突に放たれたナイフ・・・どうやら古い設備だった為に引っかかっていた最後の1本だった。ミオはそのナイフを扇子で弾き回転しながら再び降ってきたナイフを掴み眺めている。
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「このナイフ・・・普通のナイフじゃない・・・」
どうやらこの部屋の仕掛けには特殊な力が宿っているようだ。
その力があったからこそ通常の刃物では傷をつける事も難しい魔族の体を切断できたのだろう・・・。
そんなミオの背後から物音が響いてくる・・・それは鉄が地面を叩き、落ちる音だった。
その音に振り返ったミオだがそこには敵の姿はなく爪で切り裂かれた入口の鉄格子だけだった・・・。
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「後ろにはいない・・・ってことは・・・?」
見上げた瞬間、目に映ったのは赤い2つの瞳だった・・・。
降って来た影に押し倒されながらも忍刀で噛みつかれるのを防いでいるが既にヒビが入り明らかに持ちそうにはない・・・。
その上にミオを押さえている魔族の爪の中の1本が肩に刺さっている・・・。
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「・・・」(涎が流れてこなくてよかった・・・)
以外にも余裕があるようだ・・・。
突然に魔族がミオの上から飛び退く・・・。
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「・・・悲しい姿ね・・・理性すら働かない・・・」
飛び退いた魔族はなんとミオの血のついた自らの指を食べている・・・。
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「・・・」(理由の想像はつく・・・人間から魔族へ変化した者は変化した時のエネルギーの消費・・・そして人とは比べものにはならない食欲・・・)
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「・・・」(それらを補うように手当たり次第に捕食しようとする・・・でも覚醒後思ったようにエネルギーの摂取ができなかった結果・・・)
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「私の血のついた指ごと食べたのね・・・」(空腹のために正常な判断ができなくなったか・・・)
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「・・・あれが・・・神と並ぶ力を持った一族の成れの果て・・・?」(知能も無くしたの・・・?貴方達は・・・)
そう呟くミオだが・・・あまり状況は良いとは言えない。
血を摂取した為か牙は鋭く伸び変異をはじめているようだ・・・。
さらに食欲の増した激しい攻撃で部屋のあちこちが崩壊している。
部屋中散らばるナイフを投げ応戦し視覚を奪うことに成功したミオは崩壊した壁の穴から通路に抜けた、だが血の匂いを追って再び狭い通路で飛び掛かって来た魔族に巴投げをし受け流すも直ぐさま体勢を立て直しミオの方へ向き直っている・・・。
立ち上がり再び具現化した忍刀を構え駆け出したミオ。
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「!!!?」
ガンっという音と共に魔族の足音が突然消える・・・。
警戒しながら再び歩み出したミオの目の前に振り子のように刃が通り過ぎた・・・。
しかしその次の刃は何かに刺さり動かなくなっているようだ・・・。
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「さっきの魔族に反応して仕掛けが作動したのね・・・」(結果的には敵は減ったけど・・・)
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「ここの仕掛け・・・流石にコリすぎじゃない・・・?」
第10話 愚者の道 前編(2)
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「取り敢 えず地下から出ないと・・・」
少し歩き回り道を探すミオだが先につながっていそうな場所はここしか無いようだった・・・。
タイミングを測り飛び込み刃の振り子を掻い潜ったミオは着地し顔を上げる、しかしそこにはライオンとヤギの頭を持ち尾には蛇の頭を持つ獣が座っていた・・・その背には黒く大きな翼が生えている。
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「この国・・・変わった番犬・・・?番猫を飼っているのね・・・」
その姿に思わず刀を構えたミオだったが直ぐにその刀を下ろした・・・。
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「君・・・普通の人間じゃないよね?」
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「いや〜初めてだよ・・・ここ抜けて来た人!」
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「貴方は合成獣・・・よね?」
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「僕はこの城の王家の守護精霊っぽいやつ!」
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「っぽいやつ・・・?」
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「僕は地下の通路の見張りをしてるんだ・・・空間に誰か入ったら分かるようにしてたら普通じゃない気配が3つもあったからビックリしたよ!」(思わず放電しそうだった・・・)
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「で、来てみたら君がいたって訳・・・」
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「王家のって言い方的に家系を護っているってことよね?個人じゃなくて・・・」
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「ところで貴方名前はあるの?」
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「勿論あるよ!僕の名前はヴィドゥル」
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「ヴィドゥル・・・貴方はこの城のこと詳しい?」
来た道を振り返り考えた後に言葉を続ける。
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「お願いがあるんだけど・・・」
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「外に出る道を教えて欲しいの・・・」
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「教えても良いけど・・・その前に遊んで!」
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「・・・」(遊んだら死にそう・・・)
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「くれる訳・・・ないよね・・・」
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「・・・じゃあ僕の質問にも答えてよ?」
ヴィドゥルはミオに思いっきり近づける・・・。
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「君・・・何者?普通じゃないし・・・何より・・・」
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「魔族に襲われたはずなのに生きてるし・・・あの仕掛けの中この部屋まで来てる・・・」
そう言いミオの足に軽く大きな前足を乗せるとクンクンと匂いを嗅いでいる・・・。
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「それに・・・なんか知ってる気がするんだよね・・・匂いとか顔とか・・・」
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「あぁ、それは・・・」
ミオが何かを言いかけた時だった・・・。
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「!!」(この気配は)
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「!!?」
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「どうやら地下の魔族等より強いのが街にいるみたいだね・・・」(仕方ないや・・・)
するとヴィドゥルは急に奥へ歩き出す・・・。
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「こっち来なよ・・・道、教えてあげるから」
そうして辿り着いた場所は行き止まりのように見えた。
ヴィドゥルがその行き止まりになっている壁の下にある地面に前足で軽く触れた直後にその目の前の床が音をたて抜けた。
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「この下は地下水路なんだ」
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「そこを抜けたら城の外に出られるよ」
ヴィドゥルは振り返りそう言った・・・。
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「私が質問に答えるまで教えて貰えないと思ってた」
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「あの質問はただ僕が興味があったから聞いただけ」
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「それに・・・僕が思い出せば良いだけの話さ・・・」(この姿になる前のこと・・・)
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「それより君が早く出たがっている訳も理解できたしね」
そう言って穴に飛び降り振り返るヴィドゥル。
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「早くおいでよ・・・ここは魔物も住み着いてるから出口まで送るよ」
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「・・・ありがとう」
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「・・・」(外から感じたあの気配は・・・あれは間違いなく・・・)
ミオは無言のまま穴に飛び降りヴィドゥルとミオの姿は水路の奥へ消えて行く。
ミオが水路を歩いている頃・・・。
路地で倒れている兵士とその近くにはエクティスの姿があった・・・。
その様子を屋根の上でこっそり様子を伺っている人影。
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「チェリー・・・さっきの人は・・・?」
そう下を向き尋ねるナイト・・・その問いにチェリーはただ無言で首を横に振る・・・。
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「そうか・・・」
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「応急処置はしたけど・・・多分無理・・・」
2人は暫く無言で路地の様子を眺めていた・・・。
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「さっきから気になってたんだけど・・・下にいる奴等が探してる犯人の特徴って・・・俺だよな・・・?」
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「そだね」
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「そだねって・・・えらく簡単に言ってくれるな・・・」
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「コレ結構な問題だと思うんだけど・・・」
ナイトはこの状況に思わず溜め息を漏らす。
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「下の奴が話てる感じからしてミオは逃げたみたいだし・・・俺達も少し離れ・・・」
ナイトは路地に背を向け去ろうとした時だった。
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「エクティス様!こんな所におられたのですね!」
第10話 愚者の道 中編(1)
突然響いたその声に思わず伏せるナイト・・・。
どうやらナイト達が見つかった訳では無いようだが・・・何やら大切な話のようだ。
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「何だ?次から次へと・・・」
そう言ったエクティスだが団員の話を聞くと直ぐ馬に乗りその場から走り去った。
団員が小声で伝えた内容をナイト達が窺い知る事は難しい・・・。
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「さっき話題になってたトルエノが襲われたらしいな・・・」
そう思われたが特に問題は無かったようだ。
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「でもミオが助けたみたい」
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「その後、黒い化け物が現れて・・・」
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「化け物と交戦中に一部が崩落して地下に落下・・・両方とも消息は不明」
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「そんな話だったな・・・」
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「ミオ・・・大丈夫かな・・・」
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「何となく・・・無事な気がする・・・信じたいだけかも知れないけど・・・」
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「地下に降りられる場所が分かれば」
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「って言うか・・・よく聞こえたね」
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「人間の耳の性能ってそんなに良かったっけ?」
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「あぁ、俺・・・ヴァンと契約してから目と耳が良くなったみたいなんだよな」
そんな話をしていた時だった、2人の視界の端を何かが横切る。
思わずそちらを振り返ったがそこには誰もいない・・・。
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「いた!」
そう言い下の道へ飛び降りるチェリーを追いかけ屋根から飛び降りるナイト。
路地で曲がる人影を見つめ立ち止まるチェリー・・・その姿はナイトにも見覚えがあるものだった・・・。
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「フェダリア!」
チェリーが追いかけ叫んだ時・・・。
フェダリアが立ち止まり見つめる先に佇む男が視界に映る。
青白い肌と黒い翼を持つ男は辺りを見渡し言う。
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「可笑しいですね・・・確かに近くに人間のような気配があったのですが・・・」
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「姿が見えませんね・・・」
確かにフェダリアを追いかけていたナイト達の姿はそこには無い・・・。
ヴェルディスの気配に気付き物陰に隠れた2人・・・。
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「ヤッパリ・・・間違いない」
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「ヴェルディス・・・」
そう小声で話すチェリー・・・。
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「ヴェルディスって確か・・・」
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「・・・出来れば姿を見せて頂けないでしょうか?」
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「それとも・・・こちらから会いに行った方が宜しいですか?」
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「ねぇ?」
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「!?」
肩に冷たい何かが触れた・・・それは紛れもなくヴェルディスの手だった・・・。
掴まれた左手を背につけるように壁に押し付けられるナイト。
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「おや、これは懐かしい顔ですね・・・」
そうチェリーを見て言うと不気味な微笑みを浮かべる・・・。
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「貴女が居ると言うことは・・・当然・・・契約者も居ると言うことですよね・・・?」
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「しかも貴女と一緒に行動している彼も当然・・・知り合いということですね・・・?」
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「フフ・・・これは楽しくなりそうです・・・」
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「貴女は先に向かってください・・・」
そう言われたフェダリアは無言のまま駆けて行ってしまう・・・。
すると思い出したようにナイトに問いかけるヴェルディス。
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「そういえば・・・何故隠れていたのですか?」
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「もしや・・・私が恐怖を感じさせてしまったのでしょうか・・・?それは悲しいですね・・・」
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「私・・・魔族一優しいと自負していたのですが・・・」
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「・・・!?」(絶対・・・嘘だ)
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「紫のお嬢 さんの居場所が知りたいのですが・・・そうですね・・・」
すると何かを閃いたように笑った・・・。
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「答えが出るまで彼の指の骨を一本ずつ折って行くのはどうでしょう!」
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「我ながら人道的な拷問だと思うのですが?」
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「人道的な拷問ってなんだ・・・?」
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「こ、コイツ頭おかしいよ・・・」
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「それは・・・最初から分かってるよ・・・」
そう言い右手で剣を具現化するナイト・・・。
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「なかなか面白い事をしますね」
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「この状況で武器を出すとは・・・」
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「ですが悪い事は言いません・・・その武器はしまった方が身のためですよ・・・?」
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「俺もやってからコレは失敗だと思った・・・」
少し残念そうに言ったナイトは剣からパッと手を離した。
しかしそうやって手を離したナイトは指を引っ掛けるようにしクルッと剣を回転させ逆手に素早く持ち替えるとヴェルディスの足を目掛け思いっきり突き立てる。
攻撃を寸前で飛び退きかわしたヴェルディスだがその足には剣の纏う風により複数の切り傷を負っている・・・。
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「最初から逆手で具現化できるようにしておくべきだったかなって・・・な」
第10話 愚者の道 中編(2)
そう向き直り剣を構えるナイト。
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「やはり・・・貴方を生かしておくのは後々邪魔になると言う感は間違いなさそうですね・・・」
その暫く後・・・街の中のとある家の扉がゆっくり開く。
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「地下水路がこんな所に続いてるなんて・・・」
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「僕はこの先には行けない・・・皆んなが恐がるから・・・」
少し寂しそうにしているヴィドゥルを優しく抱きしめるミオ。
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「今日は遊んであげられないけど、また今度時間があったら」
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「本当!?」
ヴィドゥルは嬉しそうに尾を振っている。
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「えぇ、だからそんなに寂しそうにしないで?」
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「それと・・・2番目の王子に会ってみたら良いと思う」
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「彼ならきっと気づいてくれると思うから・・・」
そう言うとミオはヴィドゥルからサッと離れ扉から出て行った。
閉まった扉を暫く見つめその場を後にするヴィドゥル。
その後ろ姿は何処となく寂しげだった・・・。
街を走り抜けとある場所に辿り着いたミオ・・・。
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「何故・・・?」
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「・・・こんな所に居るの・・・?・・・フェダリア・・・」
1年前に目の前で亡くしたはずの少女の姿に困惑するミオ。
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「・・・あの子は確かにあの時に・・・」
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「そうです・・・確かにあの時死にました貴女が関わったばかりに・・・」
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「・・・」
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「・・・何の為に・・・?・・・フェダリアに何をしたの!?」
ヴェルディスに斬りかかるミオを遮るように飛び込んできたフェダリアに思わず飛び退くミオ・・・。
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「何を怒っているのでしょう・・・?」
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「貴方が何の理由もなく人間を蘇生などするはずが無い・・・それに・・・」
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「気配も・・・もう人のものじゃない・・・」
そう言うミオの目の前に立つフェダリアの手には血の付いたナイフが握られていた・・・。
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「酷いですね・・・気配が人じゃないだなんて・・・」
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「大好きなミオおねえちゃんにそんなこと言われたら・・・泣いてしまうかも知れませんよ・・・?」
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「今はただ心を持たない人形・・・私の助手ですよ・・・でも何故でしょうねぇ」
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「おかしな事に王子を殺し損なって帰ってきたんですよね・・・?」
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「貴方・・・そんな事をさせる為に・・・フェダリアを・・・」
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「フェダリアの魂が肉体に留まっているのでしょうか?なかなか人を殺してはくれないんですよ・・・」
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「・・意識が微かにでも残った状態で操られているとでもいうの?・・・」
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「そう考えると不愍ですね・・・」
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「・・・」
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「ですが私には関係ないので使えるものは使わせていただきますが・・・」
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「どうします?このまま放置すればフェダリアはいつか人を殺すことになリますよ?」
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「・・・」
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「犠牲者も増え続け・・・フェダリアも苦しみ続ける・・・」
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「ですが、今ここで貴女がトドメを刺してあげればこれ以上苦しまないかも知れません・・・」
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「・・・そんなことの為だけに・・・」
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「私にトドメをささせる為だけにフェダリアを利用していたの・・・?」
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「でもそれが分かっていて私が貴方の思い通りにすると思う?」
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「貴方をここで斬れば終わらせられる話でしょ・・・!」
そう言い再び斬りかかるミオの前に立ちはだかるフェダリア・・・。
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「・・・」
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「・・・フェダリア」
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「やはり戦えませんか?」
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「ではこうしましょう・・・目の前の人間を斬り伏せ街の人間を全員殺して来て下さい・・・」
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「たとえ殺すことを拒絶していようとも怪我人が大量に出ればいずれ死人は出るでしょうし」
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「・・・!?」(急に動きが・・・!)
次の瞬間・・・腕に傷が刻まれている・・・。
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「・・・どうにか動きを・・・止めないと・・・」
幾度も襲い掛かる斬撃を刀で受け硬直する2人・・・。
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「フェダリア・・・本当の貴女を取り戻して!」
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「・・・」
そう声をかけるミオだが特に反応を返すことはない・・・。
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「・・・無理なの・・・?」
互いに弾くように後方へ飛び退いた両者が再び刃を交えようとした時だった・・・2人の間に飛び込んできた影が振り抜かれるミオの刀を受け止めた。
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「その決断待った!」
第10話 愚者の道 後編(1)
そこで刀を受け止めていたのはナイトだった・・・。
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「ナイト!?何故ここに?・・・」
ナイトはもう片方の手でフェダリアの手を掴み持っていたナイフは風で弾き飛び地面を跳ねるように落下した・・・。
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「話すと長いんだよな・・・」
そんなナイトを見て少し驚いたように話すヴェルディス・・・。
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「まさか・・・あの魔族達を倒してくるとは・・・」
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「手下をけしかけて急に姿を消したから余程気になることがあるんだろうって急いで探した甲斐があったな」
そんなナイトの姿に武器を引いたミオ・・・。
掴まれた手を振り解こうとするフェダリアに対してナイトがとった行動は意外なものだった・・・。
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「ちょっと手荒だけど・・・我慢してくれ・・・」
そう言いフェダリアの腹部を掌で強く叩いたその瞬間・・・僅かな桜の花びらが舞う。
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「・・・!!?」
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「掌打・・・」(でも何故花びらが・・・)
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「あのまま手にかける事になればアイツの思う壺だ」
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「それに・・・動きを止めればアイツの思い通りにはならない・・・だろ?」
そう言いながら意識を失ったフェダリアを抱えたナイト・・・。
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「意識を失わせたところで体を直接操れば関係ないですよ・・・?」
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「・・・?おや・・・できないようですね・・・」
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「・・・一体何をしたんですか・・・?」
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「フェダリアだけじゃ、お前の支配に勝てない・・・なら勝てるように力を渡してやればいい」
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「・・・どういうこと・・・?」
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「ミオがいなくなる前に墓に置いて行った桜があっただろ?」
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「あれ・・・消えずにずっと残ってたんだ・・・」
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「その一部をさっきフェダリアに打ち込んだ」
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「・・・それって・・・?」
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「武器を具現化する時に必要なのは強い思いであり意志だとしたら・・・」
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「あの桜は武器とは別の思いが入ってたんじゃないか?」
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「・・・!・・・確かに・・・武器としては具現化していなかった」
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「・・・ただ少しでも亡くなった人のせめてもの弔いをしたかったのと・・・」
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「これからも魔族と戦い続けることの誓いとして・・・?」
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「それがあの桜の正体ならフェダリアの害になる訳ない」
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「例え救えなかったとしても・・・ほんの数パーセントでも救える可能性があるならそっちに俺は賭けたい」
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「その発想は無かった・・・」
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「桜に残っていた意志だけでどうにかなるはずないでしょう・・・」
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「お前に足を折られても屈しない人間の意志でも?」
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「・・・え」
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「貴方・・・なかなか小賢しい真似をしてくれますね・・・」
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「それはこっちのセリフだよ」
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「ですが貴方・・・子供一人抱えて私と戦うおつもりですか?」
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「敵の心配をしている余裕があるとは・・・流石氷魔と言うべきか」
その声と共に足元の煉瓦を砕くように降ってきたのはヴァンだった。
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「3対1ならハンデの心配はいらんだろう?」
そんなヴァンの頭の上でチェリーが騒いでいる・・・。
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「私もいるのに!」
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「お前は赤子と変わらん・・・大人しく乗っていろ・・・」
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「・・・!!!・・・は!?」
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「上手くやってるみたいね・・・」
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「ぜんぜん出来てないから!」
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「そこらに潜んだお前の部下達は掃除済みだ・・・私も少々暇してたのでな」
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「フフッ・・・手下が減ったところで私には関係ないですよ・・・」
そう言いフェダリアを抱えたままのナイトに氷の槍を放つ。
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「・・・!」
その槍を咄嗟に刀で弾くミオ・・・弾かれ地面に刺さった槍から氷の柱が伸びはじめる・・・。
迫り来る氷の柱から逃れるように後方へ退こうとしたミオだったが・・・何故か足が動かない・・・。
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「・・・靴底が凍っている・・・?」
そのことに気づき視線を落とした瞬間に足元の氷が足首まで覆う。
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「アイツ・・・街ごと氷漬けにでもする気なのか・・・」
押し寄せる冷気を手で遮ろうとするも冷たさで痛みすら感じる・・・。
そんな時だった飛び立ったヴァンがミオ達とヴェルディスの間に着地する。
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「我が風・・・嵐の前に凍てつく風如きは無意味!」
ヴァンの着地と共に巻き起こった風により押し返した冷気が巨大な氷の結晶を形作っている・・・。
だが先ほどまで前方にいたはずのヴェルディスの姿は屋根まで届くほどある氷の結晶の上にあった・・・。
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「なかなか楽しめますね・・・しかし」
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「私も忙しい身なので今回のところはこの辺で失礼させて頂きますよ・・・仕事が入ってしまいましたので・・・」
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「うーん・・・実に名残惜しい・・・」
赤い氷の結晶を持ち唇を舐めるヴェルディス・・・。
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「そう言えば・・・そこのお嬢さん・・・血・・・美味しかったですよ」
そんな言葉を残しヴェルディスは姿を消した・・・。
第10話 愚者の道 後編(2)
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「・・・」
ミオの右手には成長した氷の柱が刺さった跡が残されていた。
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「・・・」(ちゃっかり血液採取されたか)
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「・・・血液の水分を凍らせた上で持っていくとは・・・」
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「大丈夫か?」
そう尋ねるナイトにミオは平然と答える。
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「よく色々刺さるから・・・これぐらいは平気」
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「それはそれで平気じゃない気がするんだけど・・・」
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「感動の再会中に悪いがのんびりしている暇はないぞ」
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「この氷のオブジェは目を引く・・・騒ぎは免れないだろう」
そんな時だった・・・案の定人々の声が近づいてくる・・・。
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「確かに・・・逃げた方が良さそうね」
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「ナイトはヴァンと一緒にすぐに街の外へ・・・フェダリアをお願い・・・」
そう言い残し走り出したミオ。
だがナイトの考えは違うものだった・・・。
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「ヴァン、フェダリアを頼む」
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「お前はどうする?」
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「ミオの後を追う」
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「・・・・・・後でフェダリアを迎えに来い、2人でな」
ヴァンがフェダリアを乗せ飛び立つと同時にナイトもミオを追いかけ走る・・・。
道を走り抜けた先で立ち止まり周囲を見渡しているミオの姿を見つけ駆け寄るナイト・・・。
ナイトが近づいた時・・・少しビクッとしたミオは振り返り言う。
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「伏せて!」
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「・・・!?」
その直後にミオに足払いをかけられ転倒したナイトの斜め横に土煙が上がる・・・。
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「なんか飛んできた・・・?」
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「人が作ったカラクリ武器・・・」
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「相変わらずとんだ挨拶ね・・・」
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「挨拶・・・?また敵か・・・?」
状況を飲み込めないでいるナイトを置いてミオはとある建物の屋根へ駆け登っていく。
そんなミオをすぐに追いかけ登るナイト・・・登り終えた屋根の上、そこで見知らぬ女性と話すミオの姿があった・・・。
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「毎度毎度・・・いきなり攻撃してくるなんてどう言うつもりなの?」
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「アネッサ・・・」
そう呼ばれた女性は微笑みながら答えた。
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「でもミオ・・・アナタなら私の弾丸・・・避けてくれるから大丈夫よね?」
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「まぁ・・・ちょっとした健康診断みたいなものでしょ?」
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「不健康だったら即死の健康診断ってなに・・・?」
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「・・・!?」
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「今までたまたま何とかなってるだけだから・・・」
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「いつか当たったらどうするのよ?・・・」
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「弾丸が当たっても大丈夫、急所から5ミリずらしてるから・・・ウフフ」
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「いやそれでも十分脅威じゃない・・・?」
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「・・・」(当たって大丈夫な訳が無い・・・)
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「そう言えば・・・」
ミオの後方から様子を伺うナイトに視線を送るアネッサ・・・。
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「もしかして連れなのかしら?・・・珍しいわね・・・」
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「アナタが誰かと行動するなんて」
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「流石 に1人が寂 しくなっちゃった?」
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「そんなんじゃない・・・」
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「そもそも貴女 こそこんな所で何を?」
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「お互い碌なことじゃないでしょうし」
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「当然、仕事よ?」
そんなことを言いながらナイトの横にやって来たアネッサ。
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「仲良くしてあげてね、ああ言う子・・・絶対寂しがりだから♪」
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「・・・?」
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「・・・は!??」
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「じゃあ、またね?」
そう言い残し隣の屋根に渡って行ってしまった・・・。
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「絶対会いたくない・・・」
去っていくアネッサの姿を見ていたナイトにミオは言う。
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「・・・私、下に降りる・・・」
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「べ・・・別について来て欲しい訳じゃないから・・・」(・・・何だろう・・・この何言っても微妙な感じ・・・)
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「わかってるって」
慌てて屋根から飛び降りたミオを追うナイト・・・。
ミオが地面に着地した時だった・・・突然声をかけられる。
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「相変わらず派手 にやってるねぇ」
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「・・・!?」
そこにいたのは建物に寄りかかるように立っていたトルエノだった・・・。
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「・・・トルエノ・・・?」
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「結構探したぜ・・・地下に落ちたみたいだったしさ」
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「・・・誰・・・?」
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「レイテルの第二王子」
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「あぁ・・・例の・・・」
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「へぇ・・・連れがいたのか・・・」(銀髪の少年ねぇ・・・)
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「て言うか・・・なんか初対面なのに嫌われてね?俺・・・」
