STORY
第8話 変わらない過去 前編(1)
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「今の状況なら生きて出る方法はコレしかねぇ・・・」
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「例えそうだとしても・・・それだけで罪になりかねない」
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「だが大人しくしていようが何をしようが殺されちまうだろうからな」
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「2つに1つだ・・・大人しく処刑されるか最後まで足掻いて生きる可能性を掴み取るか」
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「何にしても貴方の責任問題になると思うけど・・・」
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「まぁ、刑が執行されるまでの数日間の間に牢から外に出れるだけの横穴でも気付かれずに掘れば良いだろうけど?」
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「・・・無理そうなのは分かった・・・」
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「本当ならもっとリスクのない方法があるならそっちの方がいい・・・かなり無謀な賭けになるからな・・・」
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「それでも・・・見たくなねぇからな」
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「無実の奴が死ぬのも・・・」(兄貴が変わっていくのも・・・)
そんなトルエノの表情には先ほどまでの軽い印象は微塵も感じさせなかった・・・。
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「・・・で、その作戦・・・勝算はどれくらいなの」
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「普通の奴なら不可能だろうが・・・アンタなら可能性は十分あるはずだ」
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「・・・20%って感じかな・・・五体満足で出れることを祈るばかりね・・・」
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「・・・フッ、あんまり乗り気じゃなさそうだから既に生きるの諦めちまってるのかと思ってたぜ」
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「私は死に場所求めてここに来た訳じゃない」(生きて出て行かせてもらう・・・)
静かに地図を眺める2人・・・。
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「裁判が開かれるのはこの場所よね・・・」
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「あぁ」
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「でも、ここでの動きは基本ノープランなんでしょ?」
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「基本的にはそうなる、俺がアレコレ想定するより現場判断の方が良いこともあるだろうからな・・・」
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「ただ、警備には吹き矢を使える奴が3人いる・・・おそらくこの配置なら・・・この配置」
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「あら、隙がない・・・確かにこの配置なら互いに視覚をある程度補えるいい配置・・・」
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「因みに・・・アンタに使われたのは熊用の麻酔だったらしい」
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「え・・・?最初から殺す気だったんじゃない・・・それ」
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「・・・で、仮に運よくこの区間を突破できたとして・・・その後は・・・?」
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「俺の部屋までくれば・・・前にいる子が部屋の鍵を開けてくれる・・・あとはバルコニーからおさらば」
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「でもそれをすると完全に共犯だし・・・」
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「それに・・・あのお兄さんがこちらの動きを想定して編成を変える可能性も十分にある・・・」
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「それも含めて現場判断になるってのもある・・・」
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「半分以上が運次第じゃない・・・?これ」
時計に視線を移したトルエノ・・・。
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「そろそろマジで時間だな・・・」
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「俺ができるのはここまでだ・・・」
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「別に・・・もう十分助けられている」
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「今度あったら色々知ってること・・・聞かせて貰うからな」
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「教えられることがあるかは別にして感謝はしてる」
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「まぁ、切り札は最後まで取っておけよ・・・自分の手の内は見せるな」
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「じゃあな・・・絶対出ていけよな・・・ミオ姫様?」
トルエノはそう言い、目を合わせることなく肩をポンポンっと叩いて行った・・・。
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「!・・・今、私の名前言った?・・・」(今の名前は知らないとか言ってたのに・・・ちゃんと知ってるじゃない・・・)
そうしてトルエノと入れ替わるように入って来たメイド服の女性が口を開く・・・。
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「トルエノ様から貴女様をご案内するように仰せつかりました」
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「どうぞこちらへ・・・」
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「え!?・・・あ・・・はい・・・」
予想より遥かに丁寧に対応され少し戸惑ったミオの様子に女性は心なしか微笑んでいた・・・。
女性に案内されるがままついて歩くミオだったが・・・前方から騎士団員が近づいてきた・・・ミオ達をぐるりと取り囲んだ団員達の中の1人が女性に声をかける。
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「ご苦労・・・後は我々が引き受ける」
そう縄で縛ろうとした団員に女性は言った。
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「お待ちください!この方に縄など必要ありません」
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「私はこの方にずっと背を向けておりました・・・ですが見ての通り私は生きております・・・」
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「もしこの方が逃げる気なら既に逃げておられるはずです!」
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「・・・」(嬉しいけど・・・これから逃げる気だとは言えない・・・)
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「これは規則だ・・・いかなる理由があろうと例外は認められない」
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「・・・」
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「別に縛って貰って構わない」
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「・・・宜しいのですか?」
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「ええ」
不安そうにしている女性にミオは一言・・・。
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「ありがとう」
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「いえ、私は何もしておりません」
自ら縛って良いと言う言葉が信じられない様子の一同・・・。
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「規則でしょ?って言うより・・・そうしないとヤバイって顔に書いてある」
そう言われた団員達は思わず顔を見合わせる・・・。
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「・・・」(いや本当に書いてある訳じゃないけど・・・)
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「縄一つで貴方達の上司が安心できるのならそれでも良い・・・」
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「・・・」(何か・・・娘1人に負けている気がする・・・)
ギュッと手首を締めつける縄・・・その次に施された目隠しにより視界から光は消え何もない暗闇だけが広がった。
第8話 変わらない過去 前編(2)
そんな状態で歩かされているミオはふとある場所の違和感を感じる・・・。
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「・・・」(これは・・・風・・・ここだけ他の場所と風の流れが違う)
そんなミオがトルエノとの会話を思い出していた時・・・周囲の雰囲気の変化に足を止める。
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「・・・」(ここに入ったら急に空気が張り詰めた・・・どうやら着いたみたいね・・・)
目隠しを外され急激に差し込む多くの光はとてつもなく眩しく思わず視線を落としたミオ・・・。
その姿を見た者達が騒めいていた・・・。
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「あれが・・・若いとは聞いていたが・・・まだ子供だ・・・」
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「信じられん・・・あんな子供にあのような殺め方ができるのか?」
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「・・・」(こ、子供って・・・少しでも私がやった訳じゃないって思ってくれるのは嬉しいけど・・・)
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「・・・」(でも・・・私はここから抜け出さないといけない・・・この先のために)
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「静粛に・・・」
たったその一言で空間に沈黙が広がった・・・。
ミオはその言葉をはなった人物の後ろ・・・二階の影に目を移した・・・。
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「・・・」(配置がそのままである事を願いたいところね・・・)
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「これより・・・騎士団襲撃事件の裁判を執り行います・・・」
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「・・・」
ミオの裁判が始まっていた頃・・・一方レイテル付近の上空では・・・。
チェリーが不思議そうにナイトに尋ねる。
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「そう言えば・・・ナイト・・・急に強くなったよね・・・」
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「そう・・か?」
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「うん、でも獣人相手に戦ってた時の動きって・・・そう簡単にできるようなものじゃないよね・・・誰かに習ったことがあるの?」
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「誰かに習ったって・・・」
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「半分ぐらいは今まさに、私達が追いかけている者ではないか・・・?」
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「あぁ」
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「え・・・!?ミオが・・・?そんな事してたの私見てないよ?」
ヴァンは鼻で笑う。
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「フッ・・・当然だ・・・丁度お前が私と交代で休んでいた時の話しだからな・・・」
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「えー!!・・・私だけ知らなかったなんて・・・」
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「あはは・・・とはいえ別に派手に修行してた訳じゃなくて・・・ほとんど話してただけだからな」
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「どんな話?」
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「・・・確か・・・あの時足音が聞こえて目が覚めたんだ・・・」
八岐大蛇をなんとか倒すことに成功し夜明けもだいぶ近づいた頃だった・・・。
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「・・・!」(足音・・・!?)
微かな足音に気づき目を覚ましたナイトは体を起こしそちらに視線を向ける・・・。
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「あ、ごめんなさい・・・起こしちゃったみたい・・・」(相当気を張っていたようね・・・)
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「いや、俺は大丈夫・・・」
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「だけど、もう歩き回っていいのか?」(あんな大怪我してたのに・・・)
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「?・・・怪我の話し?うん、もう大丈夫少し休んだし」
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「大丈夫って・・・少し休んだらどうにかなるレベルだったけ・・・」
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「・・・私は少なくとも普通じゃないから・・・ね・・・」
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「そう言えば寝てたんだよね・・・もし私がいて寝づらいとかだったらあっちに行くけど」
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「寝づらいとかは無いけど・・・ミオは寝なくて良いのか?」
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「私は眠くならないし・・・必要もないから」
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「眠くならないって・・・今までも眠らずに生活してたのか?」
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「えぇ・・・まぁ、ほとんどはね」
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「・・・」(どうなっるんだ・・・身体の作り)
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「私のことは気にしなくて良いから・・・ナイトは寝た方がいい」
少し考えたミオは背を向けその場を去ろうとした。
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「やっぱり、私向こうに行く・・・話しはまた明日・・・」
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「ちょっと、待って」
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「!!?・・・」
先ほどまで座っていたはずのナイトに腕を掴まれたことに驚きを感じるミオ。
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「・・・どうしたの?」(この速さは契約によるもの?・・・さっきの戦闘の動きといい、契約直後からこんなにも力を使える人間は見たことない・・・)
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「聞きたいことがあって」
そう笑顔で言うナイト。
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「・・・え・・・ん?・・・何を?」
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「いや・・・どうやったら魔族のと戦えるようになるのか聞きたくて・・・」(今の俺じゃ力不足だから・・・)
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「・・・逆になんでそんなに強くなりたいの?」
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「別に強くなって戦うより、逃げた方が生存確率が高いことだってある・・・」(今のナイトのスピードなら逃げ切ることも可能だと思うし)
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「俺は・・・ただ逃げることしか出来ないなんて嫌なんだ・・・」
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「・・・それにしても・・・私みたいに戦えるようにね・・・」
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「ナイトが今のスピードで成長したら・・・すぐに私より強くなるかもしれない・・・」
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「それは・・・流石に無理じゃない?・・・」
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「意志を強く持っていられること・・・それは何よりも強くなるために大事なこと・・・」
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「だけど・・・そうね・・・戦う為に必要なこと・・・」
ミオは少し考えた後・・・。
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「1つ言えるのは・・・戦う時に相手の特徴を見極めることを意識した方が良いってことかな・・・」
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「特徴を見極めるって・・・どうやって?」
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「一番わかりやすいのはやっぱり見た目かな?・・・」
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「人外相手の場合って大体見た目で分かることが多いの・・・」
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「そ、そんな見た目で分かるの?」
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「うん、例えば・・・火を操れる者だったら周囲のマナも影響されて火花が見えることもあるし・・・爪が発達していたら近接攻撃を好む傾向があったりするから」
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「でも・・・これはあくまで今までの傾向って言うだけで今後どう変化するかは分からない・・・」
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「ただ・・・相手の動きを観察して悪いことは無いと思う・・・」
その後も戦闘についての会話が続き・・・。
第8話 変わらない過去 中編(1)
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「なるほど・・・」
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「まぁ、後は経験・・・自分なりの答えを見つける事が一番成長に繋がると思うから・・・」
そう言ったミオは思い出したように切り出す・・・。
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「あと・・・今後何かあっても私を庇ったりないで・・・」(・・・それで死なれたら・・・私が耐えられない・・・)
そう俯くミオだったが再び顔を上げ微笑みながら言った。
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「ごめん・・・長話しちゃった」
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「もう夜が明けそう・・・私は用事思い出したからナイトは少しでも眠ってね・・・」
するとナイトの返事を待つ事なく僅かな桜の花びらを残しミオは姿を消していた。
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「ちょっと、待てって・・・」
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「また、いなくなった・・・」(何か・・・幻みたいだな・・・)
そう言いながら先ほどまでミオの腕を掴んでいた手を眺めるナイト・・・。
ミオはそんな様子を遠く離れた木の上から見ていた・・・。
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「・・・・・・」(本当は関わってはいけない事・・・分かっているのに・・・私は1人で生きていかなくちゃいけないのに・・・)
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「・・・・・・」(何か・・・いや・・・考えるのは止めよう・・・)
少しの間ナイトを見詰めた後すぐにその場を去った。
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「・・・!!」(今・・・何か見えた気がしたけど・・・気のせい・・・か?)
現在・・・レイテル上空
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「あとは・・・ヴァンの知っての通りだ」
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「その後・・・私に修行を手伝えと言ってきたのか・・・」
どこか納得したように言っているヴァン・・・それを聞いていたチェリーは・・・。
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「2人で話を進めて納得しないでよ〜」
チェリーは吹き飛ばされそうになりながら必死にしがみついている・・・。
ここはあくまで空の上・・・ナイト達は何事もないように話ているが結構な速度で飛んでいるためチェリーにとってその風の抵抗はかなりのものだった・・・。
だが何やら墓から持ってきた光る桜を眺め考え事を始めたナイトは気付いていない・・・。
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「・・・」(約束・・・何で・・・守れなかったんだろ・・・・・・?・・・約束・・・?)
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「・・・」(何か・・・記憶が曖昧でよくわからないことに・・・)
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「・・・・・・」(腕が・・・プルプルする・・・あ・・・もう無理!)
限界を超えチェリーの手はヴァンから離れてしまった!
もの凄い勢いで吹き飛ばされるチェリー・・・。
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「・・・!」(あれ・・・?)
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「悪いチェリー、考え事してて気づくのが遅れた・・・」
そう言いながら身を乗り出すようにしてチェリーの尻尾を掴んでいるナイト・・・。
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「ナイト・・・お前落ちるなよ・・・」(あと私の羽毛を掴むのはいいが・・・引き抜いたりするなよ)
ヒョイッと体勢を立て直したナイト。
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「ふぅ、大丈夫・・・これくらいじゃもう落ちないよ」(・・・あ!・・・一枚羽を抜いてしまった・・・)
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「・・・」(・・・見なかった事に・・・いや、この件は風に流そう・・・)
ナイトは抜けてしまったヴァンの羽からパッと手を離すと・・・ものすごい勢いで後方に舞って行った・・・。
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「・・・」(予想以上に飛んで行った・・・何かものすごい罪悪感が・・・)
ナイトはヴァンに対して罪悪感を抱きながらも・・・風に靡いているチェリーをヴァンの背中に下ろした・・・。
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「ナイト・・・今度お前の白髪抜かせてもらうぞ?」
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「俺・・・銀髪なんだけど白髪って・・・見分けつくんデスカ・・・?」(バレてた・・・)
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「そ、そんなことより・・・」
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「はにゃ・・・何か・・・頭がクラクラする・・・」
どうやら暫く逆さまになっていたためか頭に血がのぼってしまっているようだ・・・完全にへばっている。
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「大丈夫・・・か?」
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「ナイト!」
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「!?」
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「さっきはありがとう!もう死んだかと思った・・・」
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「感謝感激雨霰!感謝してもしきれないよ・・・!もう何でも言うこと聞きます!」
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「いや・・・別にそんなにして欲しいことは・・・」(何か変になってる・・・!?)
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「別にすぐにレイテルには着くのだから下で合流しても良かった気がするのだが・・・?」
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「早めに落ちてからの合流のメリットないでしょ!」
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「ヴァンのヴァカァァー!」(そう簡単に死ななくても落ちるのは恐いんだ・・・!)
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「ヴァン・・・お前・・・チェリーに絡むの好きだよな・・・」
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「私も以前は大人しく話しをしていたが・・・それを見てから何となくいじりたい衝動に駆られてな・・・」
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「どんな衝動よ」
そんな会話をしている時だった、ヴァンは周りを見渡しゆっくり降下するとレイテルの城下町付近の木陰に舞い降りた・・・。
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「ここからは歩きだな・・・」
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「飛んで入るには見張りが多い・・・」
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「ここまで来た時点で俺たちの事・・・誰か1人ぐらいには何げ見付けられてそうだけどな・・・」
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「まぁ、例えそうだとしても・・・この雰囲気だ」
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「因縁をつけられそうなことは極力避けるべきだろう・・・」(どこまで話しの通じる奴かは分からんが・・・)
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「そうだな・・・」(そもそも・・・まだ生きているのかさえ・・・)
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「ねぇ、あそこ」
チェリーが指差したのは・・・。
街を囲むように聳え立つ壁・・・ではなくその先に僅かに見え隠れする人影だった・・・。
どうやら幸いこちらの存在には気づいていない・・・。
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「何か話をしているな・・・」(それにしても・・・数の割にある意味警備が緩くないか?)
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「でもここからじゃ会話の内容までは分からないな・・・」
音を立てない様に静かに近づくナイト・・・。
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「ここが限界だな・・・これ以上は流石に気付かれる・・・」(いや別に直接聞いても・・・)
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「あいつら仕事してるのか・・・?」(見張り慣れしてる者ならもう少し広く警戒しそうなものだが・・・)
第8話 変わらない過去 中編(2)
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「そう言えば・・・今日の見張り・・・交代少ない気がしないか?」
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「それは今やってる裁判のせいだろ・・・」
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「あぁ・・・あの変わった服の女の子か・・・」
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「また・・・処刑だろうな・・・」
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「・・・!!!?」(処刑!?)
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「これで何人目だ?」
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「・・・そんなの・・・もう覚えてないよ・・・」
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「だが・・・今回の一件、トルエノ様がエクティス様と揉めていたとか」
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「そんな話確かに聞いたな・・・確か意識の無い女の子を部屋に連れ込んだと、エクティス様がものすごい剣幕だったとか・・・」
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「つ・・・連れ込んだ・・・?」
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「・・・」(この国どうなってるんだ・・・)
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「嫁さんにでもするのか・・・!?」
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「い、いくら無類の女好きと言われるトルエノ様でも・・・いやトルエノ様だしな・・・」
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「・・・」(いや、どんな奴だ・・・?)
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「ものすごい奇策を持ってそうではあるよな・・・」
そんな会話を聴き・・・少し離れた場所に再び集まった3人・・・。
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「・・・さっき・・・嫁って・・・?」
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「本当なのかな・・・?」
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「話からして・・・ミオが捕まったこと、今裁判にかけられていること・・・そして何らかの理由で王子が部屋に連れ込んだことは間違いないだろう・・・」
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「後の話は個人的な主観が含まれ過ぎている・・・」
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「取り敢えず今は生きていそうだな・・・」
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「何にしてもミオを探しに行くか・・・城に・・・」
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「丸腰で入っていきそうだな・・・お前」
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「何をするにしても中に入らないことには・・・」
そう壁を見上げたチェリーは何かを思いついたように・・・。
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「ナイト・・・この壁登れる?」
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「普通は無理だな・・・足場もないし」
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「いや、私を足場にすれば登れる・・・」
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「が・・・見張りが上にもいるだろう」
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「それがね・・・」
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「???」
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「いないんだよ」
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「って言っても今はいないって言ったほうが正しいかな?」
そんな時だった急に先ほど話ていた見張り達がざわめいている・・・。
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「・・・」(何だ?)
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「大変だ!裁判にかけられていた者が急に暴れ出したらしい」
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「今のところ死人は出ていないがかなり手を焼いているため最低限の見張りを残してあとは応援に回れとのことだ」
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「最低限って今でも十分少ないと思うんだが・・・あれだけの人数で手を焼くってどんなレベルなんだ」
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「あらら」
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「まぁ、まともにやれば普通の兵では相手にならんだろうが・・・」
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「でもこれでもっと安全に入れそうだね」
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「そう言えば元々見張りが削られてるって言い方だったな・・・」
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「そう、少人数で広い範囲を見回ってるから一時的に見張りがいない時間が出来るんだよ」
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「っていうか・・・正面から入った方が逆に怪しまれなかったりは・・・」
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「それも一理あるが、状況が状況だ・・・真っ当にしていようが捕まる可能性も否定できん・・・」
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「でも登ったところで入り口の見張りからは見えるだろ?」
そう言われたチェリーは自信満々に答えた。
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「そこは私に任せて!」
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「・・・」(意味なく不安だ・・・)
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「・・・」(この上なく不安だ・・・)
そんなことを思っている2人を尻目にチェリーは壁の上に1度登りすぐに戻ってきた・・。
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「あと、2分35秒くらいしたら上に登っても平気だよ」
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「・・・・・・」(細かいな・・・)
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「さっきから気になってるんだけど・・・何をする気なんだ?」
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「私があの人達の気を引くからその間に上から中に入って」
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「気を引くって・・・だからどうやって・・・」
そんなナイトの疑問に答えることもなく・・・。
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「今がいい、早く上に登って中に!」
そう言い残しチェリーは走り去ってしまう。
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「信じるしかなさそうだな・・・ナイト早く登れ」
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「私の大きさでは流石に目立ち過ぎて無理だが中に入れる手伝いぐらいはしてやれる」
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「ヴァン・・・サンキュな!」
ナイトが助走をつけヴァンの背を足場に飛び上がった時・・・。
見張りの方へ走り去ったチェリーを一瞬包んだ桜吹雪・・・。
その中から姿を現したチェリーは猫のような姿に変わっていた。
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「何だ!?」
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「猫!?なのか?しかもピンク!??」
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「魔獣の一種か!?」
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「ニャー」
チェリーは兵士の顔を軽く引っ掻いた後、肩を足場に頭の上に乗った。
第8話 変わらない過去 後編(1)
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「こ、この変な猫・・・早く取ってくれ!!!」
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「俺は猫が苦手なんだ!!」
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「フシャー」(失礼しちゃうよ・・・苦手なんて・・・って私は猫じゃなかった)
チェリーが見張り兵の頭の上で威嚇している頃・・・。
ナイトは壁を越えて民家の上に降りていた・・・。
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「チェリー・・・化けられたんだな・・・」(でもリスって鼠に近そうだけど・・・猫って天敵だよな・・・)
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「・・・・・・」(何で猫なんだ・・・?)
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「・・・ここで考えていても仕方ない・・・取り敢えずここから降りるか・・・」
屋根をつたい路地へ飛び降りた。
その頃・・入り口では・・・。
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「ちょっと待ってろ・・・今とってやるから・・・大人しくしてろよ・・・」
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「ニャー!!」(ヤダよ、おバカ)
チェリーはご機嫌な様子で捕まえようとしたもう1人の頭に飛び移るとそのまま街の方へかけて行った。
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「大人しくこっちに来て捕まれよ!」
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「くそっ魔獣を街に入れたなんてエクティス様に知れたら俺達の首が飛びかねない・・・」
そう言いチェリーを追いかけようとする見張り兵の様子に他の兵が思わず声をかける。
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「どうしたんだよ!?そんなに慌てて・・・」
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「ちょっちょっと用事が!」
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「おい、用事って・・・見張りはどうすんだよ」
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「悪いが少しの間変わってくれ!」
そう言い残し追いかけて行った・・・。
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「ニャー」(もう追いついてきた?)
そこへ路地から出てきたナイト・・・。
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「チェリー?」
ナイトは思わず追いかけようとするが・・・。
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「・・・!」
後ろから追いかけて来る兵士の存在に気づき再び薄暗い路地に身を隠す・・・。
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「・・・」(入り口にいた2人か・・・)
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「・・・」(まずどうやって助けるか考えた方が良さそうだな)
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「・・・」(とにかくチェリーを見つけない事にはな)
辺りを軽く見渡したナイトは屋根に再び登り屋根をかけて行く・・・。
その頃、チェリーはひたすら人の隙間を縫うように道を走っていた・・・。
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「・・・」(何か、とってもしつこい)
だがそんなチェリーの体が不意に持ち上げられた・・・。
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「ウェ?」(何?何かに捕まった?誰に?)
屋根の上からチェリーを見つけ様子を伺っていたナイト・・・。
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「・・・」(チェリー・・・だけど・・・捕まってる!?しかも女の子に・・・?)
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「・・・」(これはどうするべきなんだ・・・)
チェリーを捕まえていたのは兵士ではなく小さな女の子だった。
いきなり持ち上げられて必死でバタバタしているチェリー・・・。
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「ニャー」(はなしてー)
そんなチェリーの元へやってきた見張りの兵達。
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「面倒な時に来たな・・・」(下手に動けない・・・)
チェリーを抱えた少女に声をかける。
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「お嬢ちゃん、その猫ちゃん・・・おじちゃん達に渡してくれないかな?」
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「・・・???」(お嬢ちゃん?)
そう言われた女の子は・・・。
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「この猫・・・おじちゃん達が連れてた訳じゃ・・・ないよね?」
その声にチェリーは確かに聞き覚えがあった・・・。
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「・・・!!?」(何で・・・?そんなハズはないのに・・・?でも・・・この声は・・・)
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「そうだけどね、その猫ちゃんは・・・とーても危ないんだよ?」
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「人をいじめちゃうかも知れないんだ・・・だから・・・ね?」
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「ダメ!渡さない!この猫はおねえちゃんの猫だもん!」
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「お、おねえちゃんの・・・?」
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「じゃ、じゃあお姉ちゃんの名前は何かな?」
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「ミオ・・・ミオおねえちゃん・・・」
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「・・・・・・!!」(その呼び方で・・・この声は・・・もう1人しかいない)
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「・・・」(どういう事だ・・・)
女の子の言葉で確信を得たチェリーは冷や汗が止まらない・・・。
何故ならその声の主はもうこの世にいるはずの無い人間のものだったのだから・・・。
チェリーは恐る恐る見上げ見えた顔は・・・紛れもなくフェダリアだった・・・。
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「・・・」(フェダリア・・・どうして?)
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「ミオ・・・?ミオって確か今・・・」
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「でも顔も似てない気がするし・・・同じ名前なだけかも・・・?」
困惑し顔を見合わせていると・・・。
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「お前達!持ち場を他人に押し付けて何をやっている?」
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「も、申し訳ありません!」
2人は声を揃えてその声に応えた。
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「以前・・・知り合いから猫の逃げたと話を聞いておりまして」
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「その猫をたまたま見つけ飼い主に届けた次第であります!」
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「・・・呆れて怒る気も失せた・・・もういいからサッサっと持ち場に戻れ!」
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「ハッ」
そう言ってそそくさと去っていく兵士達に手を振る。
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「おじちゃん達ありがとう・・・」
キョロキョロと周りを確認しゆっくりと下に降ろした・・・。
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「・・・」
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「チェリー・・・、ミオおねぇちゃんは一緒じゃないの・・・?」
第8話 変わらない過去 後編(2)
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「う・・・それは・・・」(寧ろ今探してるって言うか)
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「そう・・・じゃあトルエノって人は?」
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「え?」
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「じゃあ・・・そっちのおにぃちゃんは?知らない?」
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「え・・・俺!?」(この距離で気づいてたのか・・・?)
そう言われ屋根から降りてきたナイトに女の子は尋ねる・・・。
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「だって・・・おにぃちゃん・・・ミオおねぇちゃんの友達だよね?」
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「何でそう思うんだ?」
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「エヘヘ・・・おにぃちゃんから少しだけミオおねぇちゃんと同じ匂いがするから・・・」
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「匂い・・・?そう言えば桜の匂いが・・・」(って・・・この子やっぱりミオと知り合いって事だよな・・・)
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「うん!ミオおねぇちゃん桜のいい匂いがしてたの・・・」
すると女の子は思い出したように再び尋ねる。
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「ねぇ、おにぃちゃん!トルエノって人、どこにいるか知らない?」
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「悪いけど・・・俺もこの街に来たばかりでよく知らないんだ・・・」
そう申し訳なさそうに答えるナイト・・・。
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「でも、何でそんなにトルエノって人を探してるんだ?」
しかしそう尋ねられた女の子の答えに衝撃を覚える・・・。
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「え・・・?だって殺せって言われたから・・・」
思わず言葉の意味を解っていないのではないかと思うほど平然と話す女の子。
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「え・・・」(聞き間違い・・・?)
思わず聞き返そうとしたナイトだったが・・・。
女の子はキョロキョロとあたりを見渡している・・・。
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「・・・呼んでる・・・」
ただその一言を残し走って行ってしまった・・・。
ナイトも急いで追いかけたのだが・・・。
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「・・・」
細い路地を走り抜けていく女の子を追ってきたナイト・・・だが角を曲がった直後にその姿を見失ってしまう。
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「き、消えた!?」
ナイトが驚くのは無理もない・・・何故ならその場所は抜け道もない行き止まりだった・・・。
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「・・・」(右・・・左・・・下・・・後ろは隠れる場所も無かったはず)
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「だとしたら・・・上・・・?」(いや・・・子供じゃ無理だな・・・)
行き止まりの路地から見上げたナイトに見えるのは建物に遮られ切り取られたような空だけだった。
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「・・・ここにいても仕方ないな・・・」(1度戻るか・・・って言うか・・・)
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「・・・」(・・・思わずチェリー置いてきた・・・)
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「・・・」(何となく嫌な感じがする・・・)
そうして路地を後にするナイトの姿を見つめる影があった・・・。
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「随分街で遊んでいたようですね?フェダリア・・・何をしていたんです?」
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「・・・お散歩」
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「そうですか・・・まぁ、いいでしょう」
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「ところで貴女を追ってきた銀髪の彼はお知り合いですか?」
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「・・・違うよ・・・」
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「そうですか・・・」(不思議ですね・・・追って来たように見えますが・・・)
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「しかし何となく生かしておくと面倒になりそうな予感がしますね・・・」
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「・・・」
それから暫くして・・・路地から出てきたナイト。
そこには不安そうにポツンと座っている猫・・・ではなくチェリーだった。
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「・・・?チェリー」(何かこっちはこっちで様子が変だ・・・)
ナイトの姿を見ると駆け寄ってきたチェリー。
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「良かった!無事だったんだ!」
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「無事?ってどう言うこと・・・?」
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「さっきナイトが行った方からすごく強い魔族の気配がして・・・」
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「だからすぐに探しに行ったけど・・・・わからなくて・・・1度戻ってきたところだったの・・・」
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「・・・それに・・・」
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「それに・・・?」
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「ナイトが追っていった女の子はフェダリアなの・・・」
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「!・・・フェダリア?って・・・まさか・・・あの?」
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「うん・・・1年前・・・死んだはずの・・・」
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「・・・ふーん・・・あの子が例の・・・」
そう落ち着き払っているナイト。
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「・・・全然・・・驚かないんだね・・・」
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「いや、驚いてはいるんだけど・・・何かここに来るまで色んな話聞いたからな・・・」
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「何か全くありえないとは思えなかったっていうか・・・」
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「な、なんて適応力・・・」
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「ただ・・・」
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「ただ?」
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「もし、1年前に死んだフェダリアだとして・・・そのフェダリアは何で王子を殺さなくちゃいけないんだ?」
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「恨みを持つわけはないだろうし・・・殺せって言われたってことは別の誰かがいるってことだし・・・」(そんなことさせる目的は何なんだろう)
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「ナイト・・・」(ちゃんと考えられる人だったんだ・・・!)
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「・・・チェリー・・・俺のことすげー馬鹿だと思ってたろ・・・」
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「そんなことないよ!」
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「うわ・・・分かりやすすぎて逆に怒る気が失せるな・・・」
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「あのさぁ・・・」
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「あぁ、わかった・・・」
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「あの子も探したい・・・だろ?」
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「ナイト・・・いいの?」
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「?・・・ミオの事か?勿論探す・・・」
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「フェダリアも余裕があれば探すつもりっと言いたいところなんだけど・・・」
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「どっちを探しても最後は同じ場所に行き着く気がする」
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「???」(何か・・・本当にちょっと前まで違う人みたい)
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「・・・」(チェリーが言ってた強い魔族はフェダリアと一緒にいるんだろう)
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「・・・」(ミオがその魔族の気配に気付けば・・・確実にフェダリアにも会うことになる・・・)
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「・・・」(その逆でもおそらくは・・・・)
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「じゃあ、俺はあっちを探しにいくか・・・何か気配を感じたらまた教えてくれよな」
そう言い歩き出したナイトを慌てて追いかけるチェリー。
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「待って私も一緒に行く〜!」
