STORY
第7話 変わらない過去 前編(1)
幼い男の子の声が聞こえた・・・。
「今度何かあったら・・・絶対・・・ってやるよ・・・の約束だ」
「・・・!」
「約束・・・?」
ゆっくりと目を開けるミオ。
「・・・ここ・・・何?・・・」(確か私はレイテルの兵に囲まれて捕まった・・・)
「・・・はずよね・・・普通あの雰囲気なら」(牢屋・・・にいるはず)
しかし目を覚ましたミオの目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。
それは牢屋とは正反対の場所、壁や天井には豪華な装飾が施されており、その天井の中心には美しく光り輝くシャンデリアが・・・そんな部屋のベットで目を覚ましたミオは状況を理解できずにいた・・・
「・・・」(これは一体・・・)
「・・・」(そもそも私の荷物はどこに・・・)
ミオがそんなことを考えている頃・・・隣の部屋では。
「トルエノ!!お前どういうつもりだ!?」
エクティスが茶色く長い髪を束ねた青年に掴みかかっていた・・・。
「何の話か全然わかんねっての!、俺みたいなバカなヤツにも分かりやすいように言ってくれよな!」
「お前本当はわかっているのだろう?私が言っている意味を」
「だーかーらー、分かんねぇから言ってんだよ!聞きたいことがあるならハッキリ言えっての!」
「俺は兄貴みてーに頭は良くねーんだよ」
エクティスは自身を落ち着かせるように少し息を吐いた・・・。
「お前、先ほど捕らえた娘を自分の部屋に連れ込んだだろ・・・」
「連れ込むって・・・人聞きわりーな・・・」(あいつら・・・一々兄貴に報告しやがって・・・)
「見張りの者が言っていたぞ・・・娘を牢に入れようとしたらお前が来て・・・」
「調べたい事があると言って娘を担いで行ってしまったと・・・」
「お前を止められなかった見張りも見張りだが・・・」
「お前は・・・一体何を考えている!?あの娘には殺人の容疑もかかっている」
「ましてやこんな自分が狙われている時に!」
「そんなデカイ声で言わなくても聞こえてるっての!」
「何でもいい、早く娘を引き渡せ!」
トルエノはエクティスの手を振り解きながら言った。
「因みに・・・渡さないって言ったらどうする?」
そう言い残すとトルエノはエクティスの言葉に耳を傾ける事なく部屋を後にした。
「!!待て!トルエノ!」
その後・・・トルエノの部屋。
「!!・・・誰か・・・来た・・・」
すると部屋の扉がゆっくりと開き誰かが入ってきた・・・。
「・・・・・・?」(いない・・・訳はねーよな・・・)
その様子を伺っていたミオ。
「・・・」(あの顔・・・どこかで・・・)
「・・・」(悪い人間には見えない・・・だけど・・・)
「!!・・・」(へぇ・・・流石に速いな)
「さっき見た時は武器なんて持ってなかったはずだけどな?・・・」(もしかして・・・武器を自由に出せるのか・・・?)
「動かないで・・・」(人は見た目によらない・・・簡単には信用できない・・・)
トルエノの後ろから忍刀を突き付けるミオ。
「できれば・・・その刃物を納めてもらえると嬉しいんだけどなぁ?」
「生憎だけど私の刀には納める鞘が無いの・・・それに・・・」
「話も聞いて貰えず連れてこられたから・・・残念な事にこの上なく人間不信なの・・・」
「・・・」(話ても無駄なら、話すことなんて意味ない)
「まぁ、それは・・・確かに」(取り敢えず・・・このままじゃ話せそうもねーな・・・)
青年がそう言った直後だった。
「!・・・」(速い・・・)
トルエノは即座にレイピアを抜き、振り返りざまにミオの刀を弾いた。
ミオは少し飛び退き再び正面から刃を交えた2人・・・。
そんな中・・・、何とも言えない軽い口調でトルエノが言う。
「ふぅ〜やっと目を見て話せるな」(やっぱり・・・間違いねぇ・・・)
「・・・は?」(この状況でそんな事言う人・・・いるの・・・?)
「兄貴があアンタにした仕打ちは俺もあんまりだと思ってる」
「・・・?」(・・・兄貴・・・ってあの時の・・・だとしたら・・・コレが・・・)
その言葉を聞いたミオは少し距離を取り静かに忍刀の具現化を解いた。
「・・・!」
その様子を見たトルエノも静かに武器を納めた。
「・・・」
「・・・」
それから暫く様子を伺っていた両者・・・そんな中、トルエノの目を見詰めていたミオが先に口を開いた・・・。
第7話 変わらない過去 前編(2)
「貴方のお兄さんって・・・団長って呼ばれてた人?」
「あぁ、まぁ・・そうなる」
「・・・」(弟は確かトルエノ・・・兄がいながら王位継承の最有力候補・・・第二王子・・・やっぱり王子なの!?)
「一応聞くけど・・・名前なんて言うの?」
「俺?トルエノだけど・・・俺たち兄弟の名も顔もわりと知れてるはずなんだけどな・・・」(王子が2人が同じ騎士団って他国じゃ珍しいし)
「見ての通り、そういう文明とは無縁の生き方をしてるから・・・残念だけど世間知らずなの・・・」
「そうか?俺には寧ろその逆に見える・・・俺を含めて世間が知らずに過ごしている・・・その中に隠れてる真実のような物を知っているような感じがするが」(2年前の事件とかな・・・)
ミオは一瞬視線を逸らしたものの再びトルエノへ視線を戻し言う。
「根拠が分からないし、買い被り過ぎね」
「おそらく貴方の求めるような答えは知らない」
「・・・」(いや・・・おそらく知らねぇはずは・・・)
トルエノの様子を見ていたミオはずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
「私もちょっと聞きたい事があるんだけど」
「・・・・・・?」
「ここ・・・多分、貴方の部屋よね?」
「そうだが・・・それがどうした?」
「それがどうしたって・・・仮にも貴方のお兄さんは殺人容疑で捕まえたはず・・・」
「だとしたら通常は牢に入れられるのが普通・・・」(ましてや・・・そんな人間、肉親の部屋に入れさせないはずでは)
「もしかして牢の方が好きだったのか!?」(そう言うタイプの人だったか・・・!?)
「いや、そんな訳はない・・・」
「強いて言うなら」
「女の子牢に入れるとかなんか微妙じゃね?」
「・・・え・・・は!?」(それだけ・・・?浅いのか深いのか分からない・・・)
あまりのことに呆気にとられるミオ。
「それに・・・」
「???」
トルエノは落ち着いた声で続けた。
「俺はアンタがウチの連中を殺したとは思ってねぇんだよ」
「・・・何故、そう思うの?」
「・・・アンタも言ってたろ?状況証拠だけで捕まえるのはどうなのかって・・・」
「俺も全く同意見だ、確かに血のついた服で歩き回ってるのも珍しいけどな・・・」
「・・・汚れたものは仕方がないじゃない・・・?洗うところも着替えもないし・・・」
「まぁ、それはともかく・・・兄貴はその命を落としちまった連中の遺体も見てねぇ」
「だが見ればすぐ分かるはずだ、アレが人間の仕業じゃないことぐらいはな」(あんなのは人間がつけられるような傷じゃねぇ)
「そう・・・貴方はあの人達を見たのね・・・」
「一応な・・・で、そこでもう1つ気になることがあったんだよ」
「気になること?」
「あぁ、俺が見た遺体の中に数人、手当てした痕跡があってな・・・」
「その包帯の巻き方は少なくともこの国で教えている巻き方じゃなかった・・・」
「・・・なるほどね・・・」(そこまで考えてはなかった・・・まぁ、悪いことをした訳じゃないけど・・・)
「つまり・・・レイテル兵を襲った奴とは別に第三者がいたって考えてるのね」
「そーゆー事、でもってその第三者はアンタだと思ってる・・・」
「何故?私だと断定できる・・・?他の地域の人間なら包帯の巻き方はそれぞれのはず」
「あの包帯の巻き方もある地域特有のものだった」
「丁度アンタが脇腹に巻いてた包帯と同じ巻き方・・・」
「で、もし俺の考えがあっているとしたら・・・アンタの服についていた返り血はウチの連中を手に掛けた奴の血である可能性が高い・・・」
「だとしたらだ・・・ウチの連中を殺した人ではない何かに少なくとも傷を負わせ尚且つ生きてここにいるって事になる」
「それに・・・アンタがしているその包帯の巻き方はルーチェフリアを中心としたごく一部の地域の人間がする珍しい巻き方だ・・・」
「何だか・・・えらく回りくどい言い方ね」
「アンタだって俺の言いたいこと・・・分かってるんだろ・・・?」
「・・・」
「・・・じゃあ普通に聞かせてもらう」
第7話 変わらない過去 中編(1)
「アンタ・・・どうやってあのルーチェフリアから生きて出た?」
「!?・・・ルーチェフリア?あの2年前に滅んだ国?を出たって・・・?」
「そんな所にいたのなら、私が生きてる訳は無いでしょ?」
「俺もそう思ってたよ・・・ルーチェフリアにいた人間で生きてる奴なんている訳ないってな・・・アンタを見るまではな・・・」
「・・・?私を見るまではって・・・どう言う事?」
「俺は・・・知ってんだよ・・・ルーチェフリアにいた頃のアンタをな・・・」
「・・・!」(私を知っている・・・?・・・どうしよ全く記憶にない・・・)
「アンタは多分覚えてねぇと思うがな、あん時のアンタ・・・人形みたいに感情を感じなかったからな・・・」
「・・・」(確かに・・・そんな時期もあったかも知れないけど・・・それを知っていたのもほんの一握りの人間だけだったはず・・・)
「・・・」(だとしたら・・・この人は本当に私の過去を知っている・・・!?)
「俺の記憶に間違いはねぇ・・・ルーチェフリア王国第二王女・・・ミレイ・グランディウス・フローラ・・・」
「・・・」
「・・・まさか、私の過去を知る人間がこの世に生きてるなんて思ってなかった」
「もう・・・はぐらかさねぇんだな」
「何を今更・・・別の答えをしたところでどうせ納得もしないでしょ・・・」
「確かに国が滅んだあの日、あの場にいた」
「教えてくれ・・・あの日あそこで何があったのか・・・どうやってアンタがあんな場所から生きて出れたのか」(原因がわかれば何か対策が・・・)
「貴方が何故そこまであの一件にこだわっているのかは知らない・・・」
「でもルーチェフリアの件には首を突っ込まない方がいい・・・長生きしたいなら私にも関わらない事ね・・・」
その言葉にトルエノが何かを言おうとした時、急に部屋の外が騒がしくなった・・・。
「エクティス様、外でお待ちください」
そんな声が扉の外から聞こえている・・・。
「チッ・・・兄貴の奴・・・気短すぎだろ・・・」
そう言いながらトルエノがとあるものを差し出した。
「・・・服?」(この服・・・私の服・・・しかも綺麗に洗ってある・・・?)
「部屋の奥にバスルームがある、取り敢えずその返り血洗い流して来い」
「そんなんじゃ、たとえここから出ても街なんか歩けねぇだろ?」
「何故そこまでして、私を逃がそうとしている・・・?」
「細かい話は後だ!兄貴は俺が何とかしとく・・・」
トルエノに促されバスルームに向かうミオだったが・・・。
「そう言えば・・・この国では一応容疑者って何をするにも誰かが必ず見張るっていう決まりがあるんだけど・・・」
「今・・・ここ俺しかいない訳なんだが・・・どうする?」
「断固拒絶する・・・それがなければカッコ良かったかも知れないわね」
「それに・・・今ここで逃げる気はない・・・」(ホント・・・真面目か不真面目か分からない人・・・)
「そりゃ残念」
トルエノはミオが部屋の奥に消えたのを確認すると部屋の扉をゆっくりと開けた・・・。
「何だよ・・・騒がしい奴だな・・・」
そう言って扉を開けたトルエノを押し退けるように部屋に入ってきたエクティス・・・。
「人の部屋に押し入るなよ!」
そんなトルエノの言葉を全く気にする事なくエクティスは何かを探している。
突然動きを止めエクティスはトルエノを睨みつけ問いただす・・・。
「お前・・・あの娘・・・何処にやった?」
「何だ、そんな事かそれならそうと早く言えば答えたのにさぁ」
そう少し笑いながら言うトルエノだが。
「だから何処だと聞いている!」
そう迫る兄に対してトルエノはどこか軽い雰囲気で答えた。
「今、風呂に入ってる」
「風呂!?だと?」
「そうそう・・・ほら女の子がベタベタ血がついた状態ってそのままじゃ気持ち悪いだろうから・・・」
「入って来いって言ったんだよっ・・・アハッ」
「何がアハッだ!あの娘が浴びていた返り血こそが証拠になりえると言うのに・・・」
そう言いバスルームの方に歩き出すエクティスの腕を慌てた様子で掴むトルエノ。
「ちょっと、待てって!」
「兄貴が行ってどうするんだよ」
「風呂上がりに服に何か武器になるものを隠すかも知れないからな・・・今すぐ止めさせる・・・」
「止めさせるって、どうやって!?バスルームに入っていって連れてくるとでも言うのかよ?」
第7話 変わらない過去 中編(2)
「それにあくまでまだ容疑者だろ?罪が確定もしてねぇんだから人権は無視できねぇはずだ」
そうトルエノは鋭い目つきで尋ねる。
「たとえ返り血を綺麗に流したとしても、兄貴のことだからちゃんと他にも証拠になるものがあるんだろ?」
「まさか他にないとは言わねぇよな?」
その言葉に動きを止めたエクティス。
「ひょっとして無いのか?証拠?・・・兄貴・・・それで風呂まで乗り込むつもりだったのか?」
「だとしたら、風呂まで乗り込まなくて良かったな〜、証拠もなくてしかも捕まえた女の子の風呂に乗り込んだ・・・」
「なんて周りはドン引き、騎士団長としての面目も見事に丸潰れだったな」
そんな時だったエクティスが何かに気がついたようにトルエノの手を振り解きバスルームの手前にある脱衣所の扉を開けた・・・。
そこにいたのは今しがた服を着たであろうミオの姿が・・・。
「・・・・・・」(間にあった・・・)
ミオが少し安心したのは束の間、エクティスの言葉にミオとトルエノは凍りつく・・・。
「その服・・・見せて貰えないか?」
「見せろって・・・言われてもどうやって・・・?」
「兄貴・・・それは」
ミオが返答に困っていると・・・。
「どうした?何も隠してなければ問題ないだろ・・・?」
「別に何も隠してなくても人前で服を脱ぐのは無理・・・」
「やましい事がないから服脱いでも平気なんて奴はいねぇよ・・・」
「・・・・・・」(もしかして・・・この人・・・断る前提で言ってる?)
「・・・」(断らなくてもいちゃもんをつけ・・・断ったらそれを理由に何か言うつもりだな・・・)
「・・・」(どうやっても私を引きずり出したいのね・・・この部屋から)
「できないのか?私は弟と違って女に優しい訳ではないからな・・・長くは待たない」
ミオにそう迫るエクティス。
「そいつが今着てる服は俺も渡す前に何か隠せる場所が無いか確認した・・・」
「特にそんな場所は無かったし、何か仕込んでいるなら洗濯した時に分かるはずだ」
「服以外に隠す可能性もある」
「そんな安定性の無い場所には私なら隠さない・・・」
「流石に疑いすぎだ・・・」
「・・・」
「・・・!」(何だ?様子が少し・・・)
「何にしてもだ、何もしていない証明ができない以上もう少し話を聞かせてもらう・・・」
そう言いミオの手首を掴もうとしたエクティス。
「!・・・待て!」
「!!!」
トルエノがエクティスとミオの間に割り込み、なんとエクティスに剣を向けたのだ・・・。
「トルエノ・・・お前、何をしているのか分かっているのか?」
「見ての通りだ・・・俺は兄貴の背中をずっと見て追いかけてきた・・・だが兄貴の今のやり方には納得できねぇ・・・」
トルエノがそう言っている時・・・剣を構える反対の手でミオの手を掴み抑えていた・・・。
「・・・・・・」(トルエノが割って入らなければ・・・思わず防衛本能で武器を出すところだった・・・)
「俺はあくまでこいつを客として俺の部屋に連れてきた・・・」
「たとえ兄貴がこいつを容疑者として連れてきていたのだとしても・・・俺にとっては今は大切な客だからな」
「それはこの部屋にいる限りは変わらねぇ」
「もし、俺の部屋で俺の客に手を出すってんなら・・・喜んで相手になるぜ・・・」
「たとえそれが・・・血を分けた兄貴だとしてもな・・・」
第7話 変わらない過去 後編(1)
「ふん、いつまでその客扱いとやらを続ける気だ・・・?」
「俺の話はまだ終わってねぇからな・・・終わったらちゃんと連れて戻ってやるから・・・少しぐらい騒がず待ってろよな」
「その話と言うやつが終わったら必ず連れて来い!時間は・・・守れよ・・・」
「あぁ・・・わかってるって・・・」
そうトルエノに釘を刺すとそれまでのやり取りが嘘かのようにあっさりと部屋を出て行った・・・。
そのなんとも言えない気味の悪さを感じつつその背中を見詰めるミオだったが・・・。
部屋の扉がガタンっと閉まった瞬間 ほっと胸を撫で下ろした。
「うへ〜・・・死ぬかと思ったわ・・・」
「・・・」(本当に・・・危なかった)
少し俯き無言のまま手を見詰めるミオ・・・。
「あっ、悪かったな」
トルエノはそう言うと掴んでいた手首をサッと離した・・・。
「いや、別に・・・」(この際それは良いんだけど・・・)
「それより」
「???」
「ありがとう・・・」
「何が・・・?」
「貴方が私の手を抑えなければ・・・私はあの人を斬っていたかも知れなかった・・・」
自分の手を見詰めながらそう言っているミオの瞳は虚 で何処か悲しみを感じさせる・・・。
そんなミオの言葉にスッと剣を納めたトルエノ。
「まぁ斬らないに越したことはないが」
「別に気にしなくて良いんじゃね兄貴の事は・・・」
「???・・・へ」
「例えアンタが斬らなくても遅かれ早かれ誰かに斬られるかも知れないしな・・・」
「自分のお兄さんなのに・・・すごく軽く流してるわね・・・」
「あぁ・・・まぁ」
「アンタも見ただろ・・・あのスゴすぎる疑心暗鬼っぷりをさ・・・」
「そのお陰で無実の人間が何人処刑されているか・・・」
「無実の人を処刑しているの・・・?」(まさか・・・そんな事って)
「あぁ・・・俺が調べただけでもおそらくかなりの数になる・・・はずだ」(だが・・・助けることができなかった・・・)
そう悔しそうに呟くトルエノ・・・。
「そう、助けられなかった・・・無実だった奴も・・・それを証明できるはずだった証人すらも・・・」
「助けられなかった・・・?一体何があったの・・・?」
「・・・」(そもそも王位継承が決まっているのなら、かなりの権力があってもおかしくないトルエノが助けられない・・・ってどういう)
「・・・」(それとも・・・それを凌ぐ程の力を持つ人間が?)
「俺は今の兄貴を・・・もう兄貴とは思ってねぇ」
「!?」(・・・昔とは違うの・・・?)
「兄貴が変わり出したのは・・・俺宛の手紙が届いてからだ・・・」
「何の手紙・・・?」
「殺害予告だ・・・俺の王位継承する事に不満があるらしくてな・・・」
「人が選ぶ以上・・・賛否があるのは当然だとは思うけど・・・」
「じゃあ・・・あの疑心暗鬼は貴方を守るためなの?・・・」
「形的にはそうなっているが・・・俺は何か別の目的があると思ってる・・・」(記録の改竄、証拠の隠滅・・・動きも明らかにおかしい・・・)
「!・・・まぁ、その辺の話しは後で話すさ・・・」(生き残れてればな・・・)
「俺の事より・・・アンタは大丈夫なのか?」
「俺がアンタの手を掴む前・・・なんかヤバめだったろ?」
「今は・・・もう落ち着いてる・・・」(だけど・・・)
トルエノがミオの前に立ちエクティスに剣を向けた時・・・。
ミオはエクティスに掴まれそうになった逆の手で忍刀を思わず具現化しようとした・・・その時だったトルエノはエクティスの視界を遮るように飛び込みミオの手を自分の影に隠した。
・・・予想外のトルエノの動きに動揺しつつもその具現化した武器をミオは消したのだった・・・。
「・・・」(私は確かに・・・やめてほしいとは思っていたけど・・・)
「・・・」(知らない間に人を殺してたら・・・)
「何がそうしたのかはわからねぇが、アンタを見てると似てるなって思うんだよな・・・」
「似てる・・・?」
「あぁ、何か・・・どっかの戦場から帰ってきた兵士みたいだ・・・」
「え・・・!?そんなにゴツい・・・?」
「いや・・・見た目じゃねぇし・・・」
「っていうか・・・毎回思うけど」
「俺の言葉の意味絶対わかってて言ってるよな・・・?」
「まぁ・・・、国の為とか人の為とか何かの理由で戦場で戦い続けてるうちに自分は人殺しなんじゃ無いかっていう疑問ずっと抱えた結果・・・疲れて来てそうな感じ・・・?」(自分自身の判断を疑って、分からなくなりかけてるような)
「何その具体的すぎるやつ・・・」
そう言われたミオは大きな窓の外を見つめている。
「何とも言えないところだけど・・・色んな意味で間違ってない気がする・・・」
「やっぱさっきの気にしてるの?」
「それは・・・そう・・・」
「どんな理由があっても・・・無闇に刀を振るいたくない」(もちろん必要な時は考えるけど・・・)
「なら、大丈夫だろ」
そう相変わらず軽い口調で言うトルエノ。
「大丈夫だろって・・・何を根拠に・・・」(えらく簡単に言ってくれる・・・)
「アンタは自分を信じてないのか?」
「・・・」(信じる?自分を?)
第7話 変わらない過去 後編(2)
目を逸らし黙り込んだミオ。
「別に、根拠なしには言ってないぜ」
「!?・・・あるの?・・・」
「あったりめーだろ・・・そもそも何も根拠なしに助けねーし」(どんだけ薄っぺらい人間と思われてんだか・・・)
トルエノは何処か残念そうにため息をついた・・・。
「・・・さっき俺がアンタの前に飛び出した時・・・混乱してたのにも関わらずいきなり飛び出してきた俺をアンタは斬らなかった・・・」(混乱してても理性は働いてる・・・)
「それに本当に人を殺しちまうような奴ならとっくに俺を殺して部屋を出て行っちまってるだろうしな・・・」
「それは、そうだけど・・・」
「でも何故・・・?」
「私の普通の状態じゃないことを分かっていながらそこに飛び込んでくるなんて」(自殺志願者じゃあるまいし・・・斬っていたらどうするつもりだったのか・・・)
「いや、アンタなら斬らねぇだろうと思ってたからな」
「・・・」(あの時点で兄貴に武器を自由に出せるなんてのがバレる訳にはいかないからな・・・)
「何だか・・・言葉に羽が生えていそうなぐらい軽い感じ」(どこからくるのその自信?)
「言葉のナイフの方がよっぽど切れ味が良いな・・・これでもナイーブな方なんだぜ・・・」
「・・・ごめんなさい・・・軽率だった・・・」
「でも・・・私のイメージ的に王子って・・・もっと堅い喋り方をするものだと・・・」
「俺はそういうのキライなんだよ・・・ってそれって喋りもだし刀振りまわしてる王女様が言えたことじゃ無いよな?・・・」
「さぁ、何の話かわからない・・・」
「なんでソコ分かりやすくとぼけてるんだよ・・・」
そんな時、部屋の外が再び騒がしくなった。
「トルエノ様、そろそろお時間が・・・」
「あぁ、分かってる」
そう言ったトルエノはメイド姿の女性から筒状の紙を受け取った。
「おっ、サンキュー」
「悪いけど・・・少し席を外してくれ・・・」
と言ったトルエノは小声で続ける。
「あと、兄貴が少しでも変な動きをしたらすぐ報告してくれ・・・」
「承知致しました」
そう言うと女性は一礼し部屋を後にした。
トルエノは女性から受け取った紙を机にサッと広げると再び丸まろうとする紙の端にドンっと錘を置きながらミオに声をかけた。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
そうミオを呼び寄せたトルエノ。
「!?」
「地図・・・?ね、何か印がついた」
「あぁ、この城の地図だ・・・」
「そんな機密情報・・・部外者に見せていいの?」
「まぁまぁ・・・、こっから大事な話」
そう言いながらミオの肩に手を回すトルエノ・・・。
「その話にこれは必要なの?」
トルエノの手を指差し尋ねるミオに当然のように答える。
「モチ、必要条件!」
「そう・・・もう、いいや・・・」(どんな条件なのよ・・・)
あまりに当然のように言うトルエノに呆れてそのことについて追求を諦めた。
「さっきから兄貴が時間を気にしてるのは知ってるだろ?」
「えぇ、流石に気づいてるけど」
「兄貴が時間を気にしてるのはアンタの裁判があるからなんだが・・・」
「裁判なんてのは名ばかりで・・・事実上はただ死刑を言い渡すだけの場になってる」
「どう反論しても言葉は通らない・・・、兄貴を恐れてなのか誰1人意見を言わず首を縦にしか振らねぇ」
「それは、裁判と呼べるの?・・・」
「あぁ、俺もそう思って色々動いてはみたさ・・・無実の証拠探しから、裁判の見直しを求める文書を作成したりな・・・」
「だが・・・全部無駄だった・・・」
「・・・無実の証拠になりそうなものは処分され、作った文書も灰になっていたしな・・・正直お手上げだ・・・」
「つまり・・・、このままだとただ死を待つだけってことね・・・」(まさか人間に殺されるなんてね・・・笑えない)
「何もしなかったらな・・・」
「何か方法があるの?」
「1つだけ・・・ある・・・生きて出る方法が・・・」
そう言い小声でミオに何かを伝えたトルエノ。
「!!」
「正気なの?」
「あぁ、大真面目な話だ・・・」