ストーリーアイコンSTORYストーリー

第7話 変わらない過去 前編(1)

幼い男の子の声が聞こえた・・・。

男の子

「今度何かあったら・・・絶対・・・ってやるよ・・・の約束だ」

ミオアイコン

「・・・!」

ミオアイコン

「約束・・・?」

ゆっくりと目を開けるミオ。

ミオアイコン

「・・・ここ・・・何?・・・」(確か私はレイテルの兵に囲まれて捕まった・・・)

ミオアイコン

「・・・はずよね・・・普通あの雰囲気なら」(牢屋ろうや・・・にいるはず)

しかし目を覚ましたミオの目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。

それは牢屋ろうやとは正反対の場所、壁や天井には豪華ごうか装飾そうしょくほどこされており、その天井の中心には美しく光り輝くシャンデリアが・・・そんな部屋のベットで目を覚ましたミオは状況を理解できずにいた・・・

ミオアイコン

「・・・」(これは一体・・・)

ミオアイコン

「・・・」(そもそも私の荷物はどこに・・・)

ミオがそんなことを考えている頃・・・となりの部屋では。

エクティスアイコン

「トルエノ!!お前どういうつもりだ!?」

エクティスが茶色く長い髪を束ねた青年につかみかかっていた・・・。

トルエノアイコン

「何の話か全然わかんねっての!、俺みたいなバカなヤツにも分かりやすいように言ってくれよな!」

エクティスアイコン

「お前本当はわかっているのだろう?私が言っている意味を」

トルエノアイコン

「だーかーらー、分かんねぇから言ってんだよ!聞きたいことがあるならハッキリ言えっての!」

トルエノアイコン

「俺は兄貴あにきみてーに頭は良くねーんだよ」

エクティスは自身を落ち着かせるように少し息をいた・・・。

エクティスアイコン

「お前、先ほど捕らえた娘を自分の部屋に連れ込んだだろ・・・」

トルエノアイコン

「連れ込むって・・・人聞きわりーな・・・」(あいつら・・・一々いちいち兄貴あにきに報告しやがって・・・)

エクティスアイコン

「見張りの者が言っていたぞ・・・娘をろうに入れようとしたらお前が来て・・・」

エクティスアイコン

「調べたい事があると言って娘をかついで行ってしまったと・・・」

エクティスアイコン

「お前を止められなかった見張りも見張りだが・・・」

エクティスアイコン

「お前は・・・一体何を考えている!?あの娘には殺人の容疑ようぎもかかっている」

エクティスアイコン

「ましてやこんな自分がねらわれている時に!」

トルエノアイコン

「そんなデカイ声で言わなくても聞こえてるっての!」

エクティスアイコン

「何でもいい、早く娘を引き渡せ!」

トルエノはエクティスの手をり解きながら言った。

トルエノアイコン

ちなみに・・・渡さないって言ったらどうする?」

そう言い残すとトルエノはエクティスの言葉に耳をかたむける事なく部屋を後にした。

エクティスアイコン

「!!待て!トルエノ!」

その後・・・トルエノの部屋。

ミオアイコン

「!!・・・誰か・・・来た・・・」

すると部屋の扉がゆっくりと開き誰かが入ってきた・・・。

トルエノアイコン

「・・・・・・?」(いない・・・訳はねーよな・・・)

その様子をうかがっていたミオ。

ミオアイコン

「・・・」(あの顔・・・どこかで・・・)

ミオアイコン

「・・・」(悪い人間には見えない・・・だけど・・・)

トルエノアイコン

「!!・・・」(へぇ・・・流石さすがに速いな)

トルエノアイコン

「さっき見た時は武器なんて持ってなかったはずだけどな?・・・」(もしかして・・・武器を自由に出せるのか・・・?)

ミオアイコン

「動かないで・・・」(人は見た目によらない・・・簡単には信用できない・・・)

トルエノの後ろから忍刀を突き付けるミオ。

トルエノアイコン

「できれば・・・その刃物をおさめてもらえると嬉しいんだけどなぁ?」

ミオアイコン

生憎あいにくだけど私の刀にはおさめるさやが無いの・・・それに・・・」

ミオアイコン

「話も聞いて貰えず連れてこられたから・・・残念な事にこの上なく人間不信なの・・・」

ミオアイコン

「・・・」(話ても無駄むだなら、話すことなんて意味ない)

トルエノアイコン

「まぁ、それは・・・確かに」(取りえず・・・このままじゃ話せそうもねーな・・・)

青年がそう言った直後だった。

ミオアイコン

「!・・・」(速い・・・)

トルエノは即座そくざにレイピアを抜き、り返りざまにミオの刀をはじいた。

ミオは少し飛び退き再び正面から刃を交えた2人・・・。

そんな中・・・、何とも言えない軽い口調でトルエノが言う。

トルエノアイコン

「ふぅ〜やっと目を見て話せるな」(やっぱり・・・間違いねぇ・・・)

ミオアイコン

「・・・は?」(この状況でそんな事言う人・・・いるの・・・?)

トルエノアイコン

兄貴あにきがあアンタにした仕打しうちは俺もあんまりだと思ってる」

ミオアイコン

「・・・?」(・・・兄貴あにき・・・ってあの時の・・・だとしたら・・・コレが・・・)

その言葉を聞いたミオは少し距離を取り静かに忍刀の具現化ぐげんかを解いた。

トルエノアイコン

「・・・!」

その様子を見たトルエノも静かに武器をおさめた。

ミオアイコン

「・・・」

トルエノアイコン

「・・・」

それからしばらく様子をうかがっていた両者・・・そんな中、トルエノの目を見詰めていたミオが先に口を開いた・・・。

第7話 変わらない過去 前編(2)

ミオアイコン

貴方あなたのお兄さんって・・・団長って呼ばれてた人?」

トルエノアイコン

「あぁ、まぁ・・そうなる」

ミオアイコン

「・・・」(弟は確かトルエノ・・・兄がいながら王位継承おういけいしょう最有力候補さいゆうりょくこうほ・・・第二王子・・・やっぱり王子なの!?)

ミオアイコン

「一応聞くけど・・・名前なんて言うの?」

トルエノアイコン

「俺?トルエノだけど・・・俺たち兄弟の名も顔もわりと知れてるはずなんだけどな・・・」(王子が2人が同じ騎士団って他国じゃ珍しいし)

ミオアイコン

「見ての通り、そういう文明とは無縁の生き方をしてるから・・・残念だけど世間知らずなの・・・」

トルエノアイコン

「そうか?俺にはむしろその逆に見える・・・俺を含めて世間が知らずに過ごしている・・・その中に隠れてる真実のような物を知っているような感じがするが」(2年前の事件とかな・・・)

ミオは一瞬視線いっしゅんしせんらしたものの再びトルエノへ視線を戻し言う。

ミオアイコン

「根拠が分からないし、買いかぶり過ぎね」

ミオアイコン

「おそらく貴方あなたの求めるような答えは知らない」

トルエノアイコン

「・・・」(いや・・・おそらく知らねぇはずは・・・)

トルエノの様子を見ていたミオはずっと疑問に思っていたことをたずねる。

ミオアイコン

「私もちょっと聞きたい事があるんだけど」

トルエノアイコン

「・・・・・・?」

ミオアイコン

「ここ・・・多分、貴方あなたの部屋よね?」

トルエノアイコン

「そうだが・・・それがどうした?」

ミオアイコン

「それがどうしたって・・・仮にも貴方あなたのお兄さんは殺人容疑さつじんようぎで捕まえたはず・・・」

ミオアイコン

「だとしたら通常はろうに入れられるのが普通・・・」(ましてや・・・そんな人間、肉親の部屋に入れさせないはずでは)

トルエノアイコン

「もしかしてろうの方が好きだったのか!?」(そう言うタイプの人だったか・・・!?)

ミオアイコン

「いや、そんな訳はない・・・」

トルエノアイコン

「強いて言うなら」

トルエノアイコン

「女の子ろうに入れるとかなんか微妙びみょうじゃね?」

ミオアイコン

「・・・え・・・は!?」(それだけ・・・?浅いのか深いのか分からない・・・)

あまりのことに呆気あっけにとられるミオ。

トルエノアイコン

「それに・・・」

ミオアイコン

「???」

トルエノは落ち着いた声で続けた。

トルエノアイコン

「俺はアンタがウチの連中を殺したとは思ってねぇんだよ」

ミオアイコン

「・・・何故なぜ、そう思うの?」

トルエノアイコン

「・・・アンタも言ってたろ?状況証拠だけで捕まえるのはどうなのかって・・・」

トルエノアイコン

「俺も全く同意見だ、確かに血のついた服で歩き回ってるのもめずらしいけどな・・・」

ミオアイコン

「・・・よごれたものは仕方がないじゃない・・・?洗うところも着替えもないし・・・」

トルエノアイコン

「まぁ、それはともかく・・・兄貴あにきはその命を落としちまった連中の遺体いたいも見てねぇ」

トルエノアイコン

「だが見ればすぐ分かるはずだ、アレが人間の仕業しわざじゃないことぐらいはな」(あんなのは人間がつけられるような傷じゃねぇ)

ミオアイコン

「そう・・・貴方あなたはあの人達を見たのね・・・」

トルエノアイコン

「一応な・・・で、そこでもう1つ気になることがあったんだよ」

ミオアイコン

「気になること?」

トルエノアイコン

「あぁ、俺が見た遺体いたいの中に数人、手当てした痕跡こんせきがあってな・・・」

トルエノアイコン

「その包帯の巻き方は少なくともこの国で教えている巻き方じゃなかった・・・」

ミオアイコン

「・・・なるほどね・・・」(そこまで考えてはなかった・・・まぁ、悪いことをした訳じゃないけど・・・)

ミオアイコン

「つまり・・・レイテル兵をおそった奴とは別に第三者がいたって考えてるのね」

トルエノアイコン

「そーゆー事、でもってその第三者はアンタだと思ってる・・・」

ミオアイコン

何故なぜ?私だと断定できる・・・?他の地域の人間なら包帯の巻き方はそれぞれのはず」

トルエノアイコン

「あの包帯の巻き方もある地域特有のものだった」

トルエノアイコン

「丁度アンタが脇腹に巻いてた包帯と同じ巻き方・・・」

トルエノアイコン

「で、もし俺の考えがあっているとしたら・・・アンタの服についていた返り血はウチの連中を手に掛けた奴の血である可能性が高い・・・」

トルエノアイコン

「だとしたらだ・・・ウチの連中を殺した人ではない何かに少なくとも傷を負わせ尚且なおかつ生きてここにいるって事になる」

トルエノアイコン

「それに・・・アンタがしているその包帯の巻き方はルーチェフリアを中心としたごく一部の地域の人間がするめずらしい巻き方だ・・・」

ミオアイコン

「何だか・・・えらく回りくどい言い方ね」

トルエノアイコン

「アンタだって俺の言いたいこと・・・分かってるんだろ・・・?」

ミオアイコン

「・・・」

トルエノアイコン

「・・・じゃあ普通に聞かせてもらう」

第7話 変わらない過去 中編(1)

トルエノアイコン

「アンタ・・・どうやってあのルーチェフリアから生きて出た?」

ミオアイコン

「!?・・・ルーチェフリア?あの2年前にほろんだ国?を出たって・・・?」

ミオアイコン

「そんな所にいたのなら、私が生きてる訳は無いでしょ?」

トルエノアイコン

「俺もそう思ってたよ・・・ルーチェフリアにいた人間で生きてる奴なんている訳ないってな・・・アンタを見るまではな・・・」

ミオアイコン

「・・・?私を見るまではって・・・どう言う事?」

トルエノアイコン

「俺は・・・知ってんだよ・・・ルーチェフリアにいた頃のアンタをな・・・」

ミオアイコン

「・・・!」(私を知っている・・・?・・・どうしよまったく記憶にない・・・)

トルエノアイコン

「アンタは多分覚えてねぇと思うがな、あん時のアンタ・・・人形みたいに感情を感じなかったからな・・・」

ミオアイコン

「・・・」(確かに・・・そんな時期もあったかも知れないけど・・・それを知っていたのもほんの一握ひとにぎりの人間だけだったはず・・・)

ミオアイコン

「・・・」(だとしたら・・・この人は本当に私の過去を知っている・・・!?)

トルエノアイコン

「俺の記憶に間違いはねぇ・・・ルーチェフリア王国第二王女・・・ミレイ・グランディウス・フローラ・・・」

ミオアイコン

「・・・」

ミオアイコン

「・・・まさか、私の過去を知る人間がこの世に生きてるなんて思ってなかった」

トルエノアイコン

「もう・・・はぐらかさねぇんだな」

ミオアイコン

「何を今更いまさら・・・別の答えをしたところでどうせ納得なっとくもしないでしょ・・・」

ミオアイコン

「確かに国がほろんだあの日、あの場にいた」

トルエノアイコン

「教えてくれ・・・あの日あそこで何があったのか・・・どうやってアンタがあんな場所から生きて出れたのか」(原因がわかれば何か対策が・・・)

ミオアイコン

貴方あなた何故なぜそこまであの一件にこだわっているのかは知らない・・・」

ミオアイコン

「でもルーチェフリアの件には首を突っ込まない方がいい・・・長生きしたいなら私にも関わらない事ね・・・」

その言葉にトルエノが何かを言おうとした時、急に部屋の外がさわがしくなった・・・。

メイドアイコン

「エクティス様、外でお待ちください」

そんな声が扉の外から聞こえている・・・。

トルエノアイコン

「チッ・・・兄貴あにきの奴・・・気短すぎだろ・・・」

そう言いながらトルエノがとあるものを差し出した。

ミオアイコン

「・・・服?」(この服・・・私の服・・・しかも綺麗きれいに洗ってある・・・?)

トルエノアイコン

「部屋の奥にバスルームがある、取りえずその返り血洗い流して来い」

トルエノアイコン

「そんなんじゃ、たとえここから出ても街なんか歩けねぇだろ?」

ミオアイコン

何故なぜそこまでして、私を逃がそうとしている・・・?」

トルエノアイコン

「細かい話は後だ!兄貴あにきは俺が何とかしとく・・・」

トルエノにうながされバスルームに向かうミオだったが・・・。

トルエノアイコン

「そう言えば・・・この国では一応容疑者ようぎしゃって何をするにも誰かが必ず見張るっていう決まりがあるんだけど・・・」

トルエノアイコン

「今・・・ここ俺しかいない訳なんだが・・・どうする?」

ミオアイコン

断固拒絶だんこきょぜつする・・・それがなければカッコ良かったかも知れないわね」

ミオアイコン

「それに・・・今ここで逃げる気はない・・・」(ホント・・・真面目か不真面目か分からない人・・・)

トルエノアイコン

「そりゃ残念」

トルエノはミオが部屋の奥に消えたのを確認すると部屋の扉をゆっくりと開けた・・・。

トルエノアイコン

「何だよ・・・さわがしい奴だな・・・」

そう言って扉を開けたトルエノを押し退けるように部屋に入ってきたエクティス・・・。

トルエノアイコン

「人の部屋に押し入るなよ!」

そんなトルエノの言葉を全く気にする事なくエクティスは何かを探している。

突然とつぜん動きを止めエクティスはトルエノをにらみつけ問いただす・・・。

エクティスアイコン

「お前・・・あの娘・・・何処どこにやった?」

トルエノアイコン

「何だ、そんな事かそれならそうと早く言えば答えたのにさぁ」

そう少し笑いながら言うトルエノだが。

エクティスアイコン

「だから何処どこだと聞いている!」

そうせまる兄に対してトルエノはどこか軽い雰囲気ふんいきで答えた。

トルエノアイコン

「今、風呂に入ってる」

エクティスアイコン

「風呂!?だと?」

トルエノアイコン

「そうそう・・・ほら女の子がベタベタ血がついた状態ってそのままじゃ気持ち悪いだろうから・・・」

トルエノアイコン

「入って来いって言ったんだよっ・・・アハッ」

エクティスアイコン

「何がアハッだ!あの娘が浴びていた返り血こそが証拠しょうこになりえると言うのに・・・」

そう言いバスルームの方に歩き出すエクティスの腕をあわてた様子でつかむトルエノ。

トルエノアイコン

「ちょっと、待てって!」

トルエノアイコン

兄貴あにきが行ってどうするんだよ」

エクティスアイコン

「風呂上がりに服に何か武器になるものをかくすかも知れないからな・・・今すぐ止めさせる・・・」

トルエノアイコン

「止めさせるって、どうやって!?バスルームに入っていって連れてくるとでも言うのかよ?」

第7話 変わらない過去 中編(2)

トルエノアイコン

「それにあくまでまだ容疑者ようぎしゃだろ?罪が確定もしてねぇんだから人権は無視できねぇはずだ」

そうトルエノはするどい目つきでたずねる。

トルエノアイコン

「たとえ返り血を綺麗きれいに流したとしても、兄貴あにきのことだからちゃんと他にも証拠しょうこになるものがあるんだろ?」

トルエノアイコン

「まさか他にないとは言わねぇよな?」

その言葉に動きを止めたエクティス。

トルエノアイコン

「ひょっとして無いのか?証拠しょうこ?・・・兄貴あにき・・・それで風呂まで乗り込むつもりだったのか?」

トルエノアイコン

「だとしたら、風呂まで乗り込まなくて良かったな〜、証拠しょうこもなくてしかも捕まえた女の子の風呂に乗り込んだ・・・」

トルエノアイコン

「なんて周りはドン引き、騎士団長としての面目も見事に丸潰れだったな」

そんな時だったエクティスが何かに気がついたようにトルエノの手をり解きバスルームの手前にある脱衣所の扉を開けた・・・。

そこにいたのは今しがた服を着たであろうミオの姿が・・・。

ミオアイコン

「・・・・・・」(間にあった・・・)

ミオが少し安心したのはつかの間、エクティスの言葉にミオとトルエノはこおりつく・・・。

エクティスアイコン

「その服・・・見せて貰えないか?」

ミオアイコン

「見せろって・・・言われてもどうやって・・・?」

トルエノアイコン

兄貴あにき・・・それは」

ミオが返答に困っていると・・・。

エクティスアイコン

「どうした?何も隠してなければ問題ないだろ・・・?」

ミオアイコン

「別に何も隠してなくても人前で服を脱ぐのは無理・・・」

トルエノアイコン

「やましい事がないから服脱いでも平気なんて奴はいねぇよ・・・」

ミオアイコン

「・・・・・・」(もしかして・・・この人・・・断る前提で言ってる?)

トルエノアイコン

「・・・」(断らなくてもいちゃもんをつけ・・・断ったらそれを理由に何か言うつもりだな・・・)

ミオアイコン

「・・・」(どうやっても私を引きずり出したいのね・・・この部屋から)

エクティスアイコン

「できないのか?私は弟と違って女に優しい訳ではないからな・・・長くは待たない」

ミオにそうせまるエクティス。

トルエノアイコン

「そいつが今着てる服は俺も渡す前に何か隠せる場所が無いか確認した・・・」

トルエノアイコン

「特にそんな場所は無かったし、何か仕込んでいるなら洗濯せんたくした時に分かるはずだ」

エクティスアイコン

「服以外に隠す可能性もある」

ミオアイコン

「そんな安定性の無い場所には私なら隠さない・・・」

トルエノアイコン

流石さすがうたがいすぎだ・・・」

ミオアイコン

「・・・」

トルエノアイコン

「・・・!」(何だ?様子が少し・・・)

エクティスアイコン

「何にしてもだ、何もしていない証明しょうめいができない以上もう少し話を聞かせてもらう・・・」

そう言いミオの手首をつかもうとしたエクティス。

トルエノアイコン

「!・・・待て!」

ミオアイコン

「!!!」

トルエノがエクティスとミオの間に割り込み、なんとエクティスに剣を向けたのだ・・・。

エクティスアイコン

「トルエノ・・・お前、何をしているのか分かっているのか?」

トルエノアイコン

「見ての通りだ・・・俺は兄貴あにきの背中をずっと見て追いかけてきた・・・だが兄貴あにきの今のやり方には納得なっとくできねぇ・・・」

トルエノがそう言っている時・・・剣をかまえる反対の手でミオの手をつかおさえていた・・・。

ミオアイコン

「・・・・・・」(トルエノが割って入らなければ・・・思わず防衛本能で武器を出すところだった・・・)

トルエノアイコン

「俺はあくまでこいつを客として俺の部屋に連れてきた・・・」

トルエノアイコン

「たとえ兄貴あにきがこいつを容疑者ようぎしゃとして連れてきていたのだとしても・・・俺にとっては今は大切な客だからな」

トルエノアイコン

「それはこの部屋にいる限りは変わらねぇ」

トルエノアイコン

「もし、俺の部屋で俺の客に手を出すってんなら・・・喜んで相手になるぜ・・・」

トルエノアイコン

「たとえそれが・・・血を分けた兄貴あにきだとしてもな・・・」

第7話 変わらない過去 後編(1)

エクティスアイコン

「ふん、いつまでその客扱いとやらを続ける気だ・・・?」

トルエノアイコン

「俺の話はまだ終わってねぇからな・・・終わったらちゃんと連れて戻ってやるから・・・少しぐらいさわがず待ってろよな」

エクティスアイコン

「その話と言うやつが終わったら必ず連れて来い!時間は・・・守れよ・・・」

トルエノアイコン

「あぁ・・・わかってるって・・・」

そうトルエノにくぎを刺すとそれまでのやり取りがうそかのようにあっさりと部屋を出て行った・・・。

そのなんとも言えない気味の悪さを感じつつその背中を見詰めるミオだったが・・・。

部屋の扉がガタンっと閉まった瞬間しゅんかん ほっと胸をで下ろした。

トルエノアイコン

「うへ〜・・・死ぬかと思ったわ・・・」

ミオアイコン

「・・・」(本当に・・・危なかった)

少しうつむき無言のまま手を見詰めるミオ・・・。

トルエノアイコン

「あっ、悪かったな」

トルエノはそう言うとつかんでいた手首をサッとはなした・・・。

ミオアイコン

「いや、別に・・・」(この際それは良いんだけど・・・)

ミオアイコン

「それより」

トルエノアイコン

「???」

ミオアイコン

「ありがとう・・・」

トルエノアイコン

「何が・・・?」

ミオアイコン

貴方あなたが私の手をおさえなければ・・・私はあの人をっていたかも知れなかった・・・」

自分の手を見詰めながらそう言っているミオの瞳はうつろ何処どこか悲しみを感じさせる・・・。

そんなミオの言葉にスッと剣をおさめたトルエノ。

トルエノアイコン

「まぁらないにしたことはないが」

トルエノアイコン

「別に気にしなくて良いんじゃね兄貴あにきの事は・・・」

ミオアイコン

「???・・・へ」

トルエノアイコン

「例えアンタがらなくても遅かれ早かれ誰かにられるかも知れないしな・・・」

ミオアイコン

「自分のお兄さんなのに・・・すごく軽く流してるわね・・・」

トルエノアイコン

「あぁ・・・まぁ」

トルエノアイコン

「アンタも見ただろ・・・あのスゴすぎる疑心暗鬼ぎしんあんきっぷりをさ・・・」

トルエノアイコン

「そのお陰で無実の人間が何人処刑しょけいされているか・・・」

ミオアイコン

「無実の人を処刑しょけいしているの・・・?」(まさか・・・そんな事って)

トルエノアイコン

「あぁ・・・俺が調べただけでもおそらくかなりの数になる・・・はずだ」(だが・・・助けることができなかった・・・)

そうくやしそうにつぶやくトルエノ・・・。

トルエノアイコン

「そう、助けられなかった・・・無実だった奴も・・・それを証明できるはずだった証人すらも・・・」

ミオアイコン

「助けられなかった・・・?一体何があったの・・・?」

ミオアイコン

「・・・」(そもそも王位継承が決まっているのなら、かなりの権力があってもおかしくないトルエノが助けられない・・・ってどういう)

ミオアイコン

「・・・」(それとも・・・それをしのぐ程の力を持つ人間が?)

トルエノアイコン

「俺は今の兄貴あにきを・・・もう兄貴あにきとは思ってねぇ」

ミオアイコン

「!?」(・・・昔とは違うの・・・?)

トルエノアイコン

兄貴あにきが変わり出したのは・・・俺宛の手紙が届いてからだ・・・」

ミオアイコン

「何の手紙・・・?」

トルエノアイコン

「殺害予告だ・・・俺の王位継承する事に不満があるらしくてな・・・」

ミオアイコン

「人が選ぶ以上・・・賛否さんぴがあるのは当然だとは思うけど・・・」

ミオアイコン

「じゃあ・・・あの疑心暗鬼ぎしんあんき貴方あなたを守るためなの?・・・」

トルエノアイコン

「形的にはそうなっているが・・・俺は何か別の目的があると思ってる・・・」(記録の改竄かいざん、証拠の隠滅いんめつ・・・動きも明らかにおかしい・・・)

トルエノアイコン

「!・・・まぁ、その辺の話しは後で話すさ・・・」(生き残れてればな・・・)

トルエノアイコン

「俺の事より・・・アンタは大丈夫なのか?」

トルエノアイコン

「俺がアンタの手をつかむ前・・・なんかヤバめだったろ?」

ミオアイコン

「今は・・・もう落ち着いてる・・・」(だけど・・・)

トルエノがミオの前に立ちエクティスに剣を向けた時・・・。

ミオはエクティスにつかまれそうになった逆の手で忍刀を思わず具現化ぐげんかしようとした・・・その時だったトルエノはエクティスの視界をさえぎるように飛び込みミオの手を自分の影にかくした。

・・・予想外のトルエノの動きに動揺どうようしつつもその具現化ぐげんかした武器をミオは消したのだった・・・。

ミオアイコン

「・・・」(私は確かに・・・やめてほしいとは思っていたけど・・・)

ミオアイコン

「・・・」(知らない間に人を殺してたら・・・)

トルエノアイコン

「何がそうしたのかはわからねぇが、アンタを見てると似てるなって思うんだよな・・・」

ミオアイコン

「似てる・・・?」

トルエノアイコン

「あぁ、何か・・・どっかの戦場から帰ってきた兵士みたいだ・・・」

ミオアイコン

「え・・・!?そんなにゴツい・・・?」

トルエノアイコン

「いや・・・見た目じゃねぇし・・・」

トルエノアイコン

「っていうか・・・毎回思うけど」

トルエノアイコン

「俺の言葉の意味絶対わかってて言ってるよな・・・?」

トルエノアイコン

「まぁ・・・、国のためとか人のためとか何かの理由で戦場で戦い続けてるうちに自分は人殺しなんじゃ無いかっていう疑問ずっと抱えた結果・・・疲れて来てそうな感じ・・・?」(自分自身の判断を疑って、分からなくなりかけてるような)

ミオアイコン

「何その具体的すぎるやつ・・・」

そう言われたミオは大きな窓の外を見つめている。

ミオアイコン

「何とも言えないところだけど・・・色んな意味で間違ってない気がする・・・」

トルエノアイコン

「やっぱさっきの気にしてるの?」

ミオアイコン

「それは・・・そう・・・」

ミオアイコン

「どんな理由があっても・・・無闇むやみに刀を振るいたくない」(もちろん必要な時は考えるけど・・・)

トルエノアイコン

「なら、大丈夫だろ」

そう相変わらず軽い口調で言うトルエノ。

ミオアイコン

「大丈夫だろって・・・何を根拠こんきょに・・・」(えらく簡単に言ってくれる・・・)

トルエノアイコン

「アンタは自分を信じてないのか?」

ミオアイコン

「・・・」(信じる?自分を?)

第7話 変わらない過去 後編(2)

目をらしだまり込んだミオ。

トルエノアイコン

「別に、根拠こんきょなしには言ってないぜ」

ミオアイコン

「!?・・・あるの?・・・」

トルエノアイコン

「あったりめーだろ・・・そもそも何も根拠こんきょなしに助けねーし」(どんだけうすっぺらい人間と思われてんだか・・・)

トルエノは何処どこか残念そうにため息をついた・・・。

トルエノアイコン

「・・・さっき俺がアンタの前に飛び出した時・・・混乱してたのにも関わらずいきなり飛び出してきた俺をアンタはらなかった・・・」(混乱してても理性は働いてる・・・)

トルエノアイコン

「それに本当に人を殺しちまうような奴ならとっくに俺を殺して部屋を出て行っちまってるだろうしな・・・」

ミオアイコン

「それは、そうだけど・・・」

ミオアイコン

「でも何故なぜ・・・?」

ミオアイコン

「私の普通の状態じゃないことを分かっていながらそこに飛び込んでくるなんて」(自殺志願者じゃあるまいし・・・っていたらどうするつもりだったのか・・・)

トルエノアイコン

「いや、アンタなららねぇだろうと思ってたからな」

トルエノアイコン

「・・・」(あの時点で兄貴に武器ぶきを自由に出せるなんてのがバレる訳にはいかないからな・・・)

ミオアイコン

「何だか・・・言葉に羽が生えていそうなぐらい軽い感じ」(どこからくるのその自信?)

トルエノアイコン

「言葉のナイフの方がよっぽど切れ味が良いな・・・これでもナイーブな方なんだぜ・・・」

ミオアイコン

「・・・ごめんなさい・・・軽率けいそつだった・・・」

ミオアイコン

「でも・・・私のイメージ的に王子って・・・もっとかたしゃべり方をするものだと・・・」

トルエノアイコン

「俺はそういうのキライなんだよ・・・ってそれってしゃべりもだし刀振りまわしてる王女様が言えたことじゃ無いよな?・・・」

ミオアイコン

「さぁ、何の話かわからない・・・」

トルエノアイコン

「なんでソコ分かりやすくとぼけてるんだよ・・・」

そんな時、部屋の外が再びさわがしくなった。

メイドアイコン

「トルエノ様、そろそろお時間が・・・」

トルエノアイコン

「あぁ、分かってる」

そう言ったトルエノはメイド姿の女性から筒状つつじょうの紙を受け取った。

トルエノアイコン

「おっ、サンキュー」

トルエノアイコン

「悪いけど・・・少し席を外してくれ・・・」

と言ったトルエノは小声で続ける。

トルエノアイコン

「あと、兄貴あにきが少しでも変な動きをしたらすぐ報告してくれ・・・」

メイドアイコン

承知致しょうちいたしました」

そう言うと女性は一礼し部屋を後にした。

トルエノは女性から受け取った紙を机にサッと広げると再び丸まろうとする紙の端にドンっとおもりを置きながらミオに声をかけた。

トルエノアイコン

「ちょっと、こっちに来てくれ」

そうミオを呼び寄せたトルエノ。

ミオアイコン

「!?」

ミオアイコン

「地図・・・?ね、何か印がついた」

トルエノアイコン

「あぁ、この城の地図だ・・・」

ミオアイコン

「そんな機密情報きみつじょうほう・・・部外者に見せていいの?」

トルエノアイコン

「まぁまぁ・・・、こっから大事な話」

そう言いながらミオの肩に手を回すトルエノ・・・。

ミオアイコン

「その話にこれは必要なの?」

トルエノの手を指差したずねるミオに当然のように答える。

トルエノアイコン

「モチ、必要条件!」

ミオアイコン

「そう・・・もう、いいや・・・」(どんな条件なのよ・・・)

あまりに当然のように言うトルエノにあきれてそのことについて追求をあきらめた。

トルエノアイコン

「さっきから兄貴あにきが時間を気にしてるのは知ってるだろ?」

ミオアイコン

「えぇ、流石さすがに気づいてるけど」

トルエノアイコン

兄貴あにきが時間を気にしてるのはアンタの裁判があるからなんだが・・・」

トルエノアイコン

「裁判なんてのは名ばかりで・・・事実上はただ死刑を言い渡すだけの場になってる」

トルエノアイコン

「どう反論しても言葉は通らない・・・、兄貴あにきおそれてなのか誰1人意見を言わず首を縦にしか振らねぇ」

ミオアイコン

「それは、裁判と呼べるの?・・・」

トルエノアイコン

「あぁ、俺もそう思って色々動いてはみたさ・・・無実の証拠探しから、裁判の見直しを求める文書を作成したりな・・・」

トルエノアイコン

「だが・・・全部無駄だった・・・」

トルエノアイコン

「・・・無実の証拠になりそうなものは処分され、作った文書も灰になっていたしな・・・正直お手上げだ・・・」

ミオアイコン

「つまり・・・、このままだとただ死を待つだけってことね・・・」(まさか人間に殺されるなんてね・・・笑えない)

トルエノアイコン

「何もしなかったらな・・・」

ミオアイコン

「何か方法があるの?」

トルエノアイコン

「1つだけ・・・ある・・・生きて出る方法が・・・」

そう言い小声でミオに何かを伝えたトルエノ。

ミオアイコン

「!!」

ミオアイコン

「正気なの?」

トルエノアイコン

「あぁ、大真面目な話だ・・・」