STORY
第4話 旋風の覚醒 前編(1)
いつも同じように森や人々を照らしていた光が朝を告げる・・・しかし、そこに今日もまたあるはずだった人々の生活はもうここには無い・・・今ここにあるのは黒く焦げた建物の残骸と辺りを包む焦げ臭いにおいだけだった。その静まり返った村に響いたギギギッという音で目を覚ましたナイト・・・音のした方向に思わず視線を向けた。
「おはよう、少しは落ち着いた・・・?」
そこにいたのは黒く焦げた木片を持ったミオの姿だった。
「おはよう・・・」(いつの間に朝に・・・)
「昨日、本当はあれから寝付けなかったんでしょ?・・・」(寝付けない時ほど眠った時の眠りの深さは深いから・・・)
「え・・・いや、俺は大丈夫・・・」
「そう・・・ならいいけど・・・」
「起き抜けで悪いけど、ナイトも手伝って?1人じゃ何日かかっても終わる気がしない・・・」
「私はナイトの知り合いが何処にいそうなのかもわからないから・・・」
「・・・?」(あの瓦礫の辺りから微かに人の残留思念を感じる・・・)
ミオは持っていた木片を軽く放り投げ再び瓦礫の山へ向かい片付け始めた・・・。
「いや、それは1人じゃ無理なサイズ」
急いで駆け寄るナイト、ミオは自分の身長を優に越える木片を引き抜こうとしていたからだった・・・ミオが木片を引き抜いたその瞬間足元の瓦礫が重さに耐えきれず崩れ落ちる・・・。
「あ・・・」
バランスを崩し倒れそうになったミオの背を何かが支えた・・・。
「間に合った・・・」
安心したように息をつくナイト。
「え・・・ありがとう・・・?」(あれ・・・さっきこんなに近くに居たっけ・・・)
「ミオって・・・無茶なことよくするよな・・・」(こういう所見た感じ・・・普通の人間の女の子だよな・・・)
「・・・」(でも・・・昨日のドラゴン・・・なぜ人間として生きている?って言ってたよな・・・あれってどういう意味なんだ???)
「別に無茶した記憶はないんだけど・・・」
体勢を立て直しミオは呟いた。
「いや、してるだろ・・・」
「今だって目の下に若干くま出来てるし・・・ミオも寝れてないんじゃないか?」
「いや私はただ長く眠る習慣がないだけ・・・」
そんな2人を離れた木の上から観ていたチェリー・・・。
「確かにミオの言っていたとおり、ナイトはもの凄いスピードで成長してる・・・」
「・・・」(それに・・・一緒にいる時、なんかミオも楽しそう・・・)
「・・・」(人の優しさを知れば何かかわ・・・)
そんなことを考えながら再び2人に目を向けたチェリー。
「私としたことが・・・」(人に助けられるとは・・・しかも2回目・・・)
何やら急に暗い雰囲気になったミオにナイトが慌てているようだ・・・。
「急にどうしたんだ・・・?」(俺?俺なんか悪いこと言った??)
「あはは・・・ミオが変わるのには時間が必要かも・・・」(ミオはもう少し人を頼ることを覚えた方が)
そんな時だった、突然に辺りを漂っていた焦げ臭さを吹き飛ばす程の風が吹き抜ける。
「・・・!」
先ほどまで何やら凹んでいたミオが何かに反応した・・・。
「この風は・・・?」
「???」(ミオ?・・・さっきの何だったんだ・・・)
木の上にいたチェリーもその風に反応し駆け出す。
「見つけた!」
何かを追いかけるようにチェリーは森の木を飛び移りながら奥へ消えて行った。
「どうやら、見つかったみたいね・・・」
「見つかった・・・?そういえばチェリーはずっと木の上に居たみたいだけど・・・何してたんだ?」
「チェリーにはちょっと探し物をして貰ってた」
「探し物?って・・・何を探してたんだ?」
「まだナイトには教えられない・・・どうなるか分からないから・・・」
「でも其の内判るよ」
「え、何でだよ」(すっげー気になる・・・)
「秘密だから」
「なるほど・・・秘密だからか・・・ってなる訳ない・・・」(って、あれ・・・)
「ナイト、何でそんな所に立ってるの、次の家行くよー」
少しナイトが目を逸らしていた間にミオは次の場所へ移動していた・・・。
「あっ、もっ待ってって!」
そんな風に2人が過ごしている頃・・・森の中をその探し物を追いかけ走るチェリー・・・。
「ちょっと、待っててば」
そう言った直後チェリーは動きをピタッと止めた・・・。
「お前は村に来ていた娘の・・・何の用だ?」
森の中、姿は見えないが声だけが響く。
「貴方はナイトと仮契約してる精霊でしょ?だったらナイトと正式に契約してあげて欲しいの!」
無言になったのち再び声が聞こえてきた。
「お前は何故、人間と精霊が仮契約状態になるか分かるか?」
「人間の殆どは精霊の存在を認識できないから・・・」
「その様な相手とどうやって契約しろと言う?ナイトがお前の契約者の様な特別な者ならば話は別だが」
その声にチェリーは自信を持って答えた。
「ナイトは特別だよ、だから絶対契約できる!」(というか、させる私達が)
「お前・・・名は何という?」(その自信に根拠はあるのか・・・?)
「チェリーだよ」
「そうか・・・美味そうな名だな・・・」
「え・・・?」
第4話 旋風の覚醒 前編(2)
「ん?、すまない・・・私はヴァンリートだ」
「チェリー、精霊であるお前がそこまで言うからには何か理由があるのだろうな?」
「もちろん!ねえヴァンって呼んでいい?」(名前長いし・・・)
「好きに呼べばいい・・・」
「早く行くぞ」
「へ?」
「私の契約者は私が決める・・・見極めさせてもらうとしよう」
「本当は契約する気満々のくせに」
「何だ?」
「何でもないよ」
白々しく応えるチェリー。
そんな話をしつつチェリー達は村を目指し来た道を引き返しだした頃、ミオ達は丁度瓦礫の片付けを終えた頃だった・・・。
「案外、早く終わった」(それにしてもチェリー遅いな・・・)
「結構探したけど・・・遺骨らしい物はあんまり見つから無かったな・・」
「確かに・・・ほぼ無いのと変わらないね・・・この量・・・」(まさか食べられてしまったの・・・?)
「・・・はぁ・・・」
「・・・ハァ・・」
思わずため息が漏れる。
「それにしても・・・俺達・・・よくこれ骨って分かったよな」
「全くね」(これ漢方薬の原料って言われたら私・・・信じそう・・・)
ミオは骨のカケラを眺めながら尋ねる。
「この骨どうする?埋める?あまりにも小さいし・・・もうあえて散骨とかに・・・する?」
「・・・やっぱり、墓を作って埋めてやりたい・・・ここは辛い場所になってしまったけど・・・それ以上に皆んなが楽しく暮らしていた場所だとも思うしな・・・」
「それは・・・そうよね」
辺りを見回した後・・・。
「この村に穴を掘れそうな物って残ってないかな・・・」
「・・・・・・なさそ・・・・・・ん?」
ナイトが何かを見つけ拾い上げた・・・。
「これ・・・使える・・・かな?」(まだ・・・辛うじて・・・)
手にしていたのは・・・黒く焦げたスコップだったのではないかと思われる物体・・・。
「無理・・・絶対」(何故・・・くの字に曲がっている・・・)
「だよな・・・」(どうすれば・・・)
落胆するナイトを見つめていたミオ・・・。
「・・・今のナイトなら使えるかも知れない」
そう言ってミオは前へ手を伸ばした直後に桜の花びらと共にスコップが出現した・・・。
「!・・・具現化って・・・武器以外もできるのか・・・?」(できるなら先に教えてくれても・・・)
「うん、一応出来るけど、あんまりする人はいないと思う」
「何で?便利そうなのに・・・」
「もともと契約は戦闘において生存確率を高めるために造られた仕組み・・・だからその力で日用品を具現化する人は少ないと思う」
「そうなのか・・・」
「まぁ、それは置いといて・・・問題はここから」
「前にも話した通りナイトは仮契約状態なんだけど、その少ない精霊の力を借りて武器を具現化できた・・・」
「ん?確か普通は仮契約の状態じゃ武器の具現化はできないって言ってたよな・・・」
「そう、通常ならできないはずだから他の人より力の使い方が上手いんだと思う」
「よく分からないけど、俺もミオみたいに武器が使えるようになるかも知れないって事か?」
「できるようになると思うけど、確実にできるようになるか・・・それを今から確かめる・・・」
それまでと少しミオの雰囲気が変わった・・・。
「・・・で・・・確かめる方法って」
そう尋ねたナイトにスコップを差し出すミオ・・・。
「これを・・・持ってみて」
「このスコップを・・・?」
「そう、このスコップは私とチェリーの力で具現化してる・・・」
「ナイトが今武器を使える力を身につけているとすれば他者が造った武器でも少しの間は形を保っていられるはず・・・」
「使えない人間なら・・・?」
「即座に消える・・・いや・・・多少痛いかも・・・」
「なんか・・・だいぶ含みあるな・・・」
「でも、やってみなきゃわからないよな」
ミオの言葉聞いたナイトは不安を感じつつも静かに意識を集中させミオの持っていたスコップを手にした・・・。
「・・・!」
「・・・!」
「・・・消えない・・・!」
「体に違和感とかはない?」
「何かちょっとピリピリするけど、他には特にない」
「そう・・・良かった」(・・・スコップで試してみて良かった・・・武器だったら拒絶反応が強かったかも知れない・・・)
「・・・取り敢えず使ってみて?」
「え、あぁ・・・そうだな」(俺・・・合格・・・なのか?)
そう言いながら掘り出そうとした時だった・・・。
東の川の方から凄まじく大きな音がした!。
「!!!」
「何だ、今の・・・」
2人が川の方角を見ると・・・信じられない高さの水しぶきが上がっていた・・・。
「川って爆発するんだっけ・・・?」
思わず顔を見合わせる2人。
「あまり良いことは起こりそうにない・・・」(あの方角にはチェリーが・・・)
丁度その頃、川付近にいたチェリー達・・・。
「いきなり大量の水が降ってきたぁー!!?」
体をブルブルと震わせ体の水を落とすチェリー 。
「何だ今のは・・・?」(!・・・この気配は・・・まさか!)
第4話 旋風の覚醒 中編(1)
「でも、村はもうすぐそこだよ」(走ればきっと・・・)
再び前へ進みだしたチェリー達の背後から地響きとバキバキという音と共に木を薙ぎ倒し何かが迫ってくる・・・。
その気配に思わずチェリーが振り返る。
「シャー」
そこには目一杯口を開けた大蛇がいた・・・。
「・・・!!!」(嘘・・・)
大蛇はバクンと勢いよく口を閉じた・・・。
「・・・」(ヴァンの声が聞こえる気がする・・・)
「おい、大丈夫か・・?一応言っておくが、お前死んでないぞ・・・」
「はっ・・・え、あれっ?さっきの夢?」(何か空飛んでるしー)
どうやら噛み付かれる寸前でヴァンに救われたようだ・・・。
「・・・ある意味、悪夢だな・・・あいつにとっても」
「蛇はネズミが好物みたいだしな・・・」
「私はネズミじゃなくて一応リスの種類なの!」
「いや、見た目ネズミだから変わらんだろう・・・」
「ところで・・・あいつって・・・?」
「下を見ろ・・・」
そう言われ下を見るチェリー、その眼下に広がっていたのは木が倒れ何かが蛇行して通った後だった・・・。
「じゃあ、さっきのは・・・?」(夢じゃない・・・)
「八岐大蛇・・・思いっきり私の森を破壊して行ったな・・・」
「急ぐぞ、奴の目的地は私達と同じ場所のようだ・・・」
「え?何故?」
「知らんな、本人に聞くか?」
「嫌!絶対!反対!」(食べられる・・・)
後方から追うチェリー達・・・、その頃・・・前を進んでいる八岐大蛇は食事を取り損なったことを悔やんでいた・・・。
「ピンクの鼠・・・食い損なったな・・・」
「仕方あるまい・・・ストーム・・・あの大鷲がいたからな・・・」
「人間気触れの精霊か・・・」
「ふっ、そもそもあのサイズのネズミなど何の腹の足しにもならぬわ・・・」
「お前ら、少しは黙れ!」
「もうすぐ森を抜けるのだぞ・・・」
その頃ミオ達は水しぶきの上がった方角を見つめ只々困惑していた。
「なぁ・・・俺、目おかしくなった気がする・・・」(何か木が・・・近づいて来てる気が・・・)
「大丈夫、おかしくないから・・・」(嫌な感じ・・・)
目の前で森の木々が次々と音を立てて倒れていく・・・まるで山が押し寄せてきている様な光景だ・・・。
もう少しでその正体が分かるそんな時だった、先ほどまで響いていた地響きがピタリと止んだ。
「・・・聞こえる?この音・・・」
「聞こえる・・・何かが地面を這ってる・・・!」
微かだが確かにズルズルという音が聞こえている。
「・・・」
「・・・」
2人はゆっくりと背中合わせになった・・・。
「流石に・・・スコップでどうにかなる気はしない・・・」
不安そうにしているナイト・・・。
「取り敢えずナイトは敵の動きを見切って、回避に集中して・・・」(まさか・・・いきなり実戦になるとは・・・)
「回避って・・・どうやって!?」
「バク転、側転、前転・・・とか?避ければ何でも大丈夫・・・攻撃を考えるのは避けて余裕がある時だけでいい」
「それ、いきなり出来ることじゃないだろ!」
「ナイトはできるよ、避け方はナイトの体がもう覚えてるから・・・」
「???」(どういう意味・・・)
「・・・来る!」
「!!」
「シャー」
草の間から蛇の頭が飛び出し2人に喰らい付こうとしたがそれぞれ左右に飛び退き難を逃れた。
その頭のから胴体の方へ視線を向けた先にあったのは頭尾が8つある大蛇の姿だった・・・。
「背中に木が・・・いや翼?」(あれが木が動いてるように見えた理由か・・・)
「・・・頭の数とかは気にならない?」(大体驚くのそっちじゃない?・・・それにしても・・・八岐大蛇とは)
「いや、別に・・・」(あの翼・・・邪魔そうだなと・・・)
そんな会話をしている2人・・・。
「貴様ら・・・我らを愚弄しているのか?」(そもそも奴は何故スコップなぞ持っている・・・)
「いや」
「別に・・・」
「ますます頭に来る連中だな・・・」
「まあよい、そんなことより兄者の仇だ!」
「ミオ・フローラ、貴様は我らが喰らう!」
「・・・仇?」
「ミオ・・・兄さんに何をしたんだ?」
しかし、ミオは何やら考え込んでいる・・・。
「・・・」(うーん、思い出せない・・・そもそも兄って・・・誰)
「忘れたとは言わせんぞ・・・マッドカーサで貴様が食事をしようとした兄者の首をではねたのを!」
そう声を荒らげた八岐大蛇の言葉で思い出したように。
「マッドカーサ?ってもしかして・・・貴方のお兄さんって・・・ヒュドラ!?」(あぁ、納得)
「首・・・切っちゃったの?・・・」(すごいな・・・色んな意味で・・・)
「そうだ・・・腹を空かせ兄がやっと見つけたご馳走に喰らい付こうとした時だ!貴様が突然現れ兄の首をはねたのだ」
「そりゃ怒るかも・・・」
第4話 旋風の覚醒 中編(2)
「そう言えばヒュドラも頭8個あったかも・・・」(今は増えて9個だけど・・・)
「しかも貴様は兄が喰らおうとした小娘を逃しおった!」
「えっ、小娘?人間食べようとしてたのか?」(鹿か何かだと思ってた・・・)
「そう、8歳の女の子・・・」
そう言い、一瞬ミオの表情が曇ったものの直後に冷たく鋭い視線で大蛇を見据える。
「貴方は私を食べた後、そこにいるナイトはどうするつもりなのかしら・・・?」
「愚問だな、こんな旨そうな肉を何故我らが喰らい損なわなければならない・・・」
「そう・・・」
その答えを聞くや否や一番近くの大蛇の頭に忍刀を突き立てた。
「シャー!!」
八岐大蛇も思わず声を上げる。
「いつかの約束のため、貴方を放って置く訳にはいかない・・・」
「今度はお兄さんが弟の仇打ちに来ることになりそうね・・・」
頭部に突き立てた刀を引き抜きながらミオは言った。
「貴様!骨まで喰らってくれるわ!」
ミオ達が対峙している場所が見える木の上まで辿り着いたチェリーとヴァンリート。
「ミオ達は?」
「無事のようだぞ」(・・・ん?)
「・・・?・・・何故、お前の契約者はナイトにスコップを?」
「ナイトが武器を扱えるようになるか確かめるためだと思う」
「それにしても何故・・・普段から使っている武器ではなく・・・スコップ・・・???・・・ん!?」
ヴァンは何か気づいたようだ・・・。
「そういうことか・・・納得した・・・」
「普段から武器として造るものは自然と武器への思い入れが強くなる・・・」
「そう、元々具現化する武器は使用者のイメージで形作られ込められた意志や思いの強さで武器の強度も切れ味も変化するもの」
「熟練した武器ほど凝縮される力が大きくなり高いエネルギーを宿すようになる」
「そんな力の塊を、力の備えていない者に渡せば器が耐えきれないか・・・」
「しかし、お前の契約者はたいした奴だな・・・」
「?」
八岐大蛇が噛みつこうと首を伸ばすも後方に飛び退く回転を利用し具現化した巨大手裏剣を打っている・・・
打った手裏剣により2本の首が沈黙するも未だ身体を覆う鎧のような鱗が阻み中々数が減らない、たとえ頭の1つを斬り落とそうとも怯むのは一瞬で他の頭がすぐに動き出してしまう・・・
そんな戦いの中1つの頭がナイトに狙いを定め勢いよく喰らいついた・・・はずの蛇の頭から出血しているようだ・・・。
「!・・・良い使い方ね」
蛇の頭にスコップが刺さっている!。
「生きた心地がしなかった」
「スコップ!?だと・・・」
「お前、スコップが頭に!?」
流石に八岐大蛇もスコップが頭に刺さる日が来るとは思ってもいなかった・・・。
その様子を見ていたヴァンリートはチェリーに尋ねる。
「お前の契約者はどうやってナイトに回避の方法を教えたんだ?」
「多分、ミオは口では何も教えてないんじゃないかな・・・ただ・・・」
「ただ・・・何だ?」
「瓦礫の片付けをしていただけだよ」
「瓦礫の・・・片付け???」
「瓦礫の片付けでも色んな感覚が磨けるんだって」
「片付けで一体何が身につくというのだ・・・」
「この村の瓦礫は黒焦げですごく壊れやすくて足を置く場所を間違えると直ぐ折れちゃうから自然と足の置き場とか折れやすい木を見極めたりとかで注意力が上がりやすいみたい」
「・・・他には?」
「不安定な足場だから何もしていないようで意外と体感のトレーニングになってるんだって、他にもあった気もするけど大体そんな感じ・・・」
「まぁ、言われてみれば・・・そんな感じはしなくは無いが・・・」(普通の人間にはスパルタ過ぎるのではないか?)
「多分、普通の人には厳しいかもね、だってミオがナイトを見て決めたことだから・・・」※良い子は真似しないでね
「ナイトを見て?」
「うん、ナイトは反射神経と運動神経どっちも良いみたいだし、何より飲み込みが早そうだから少しコツが分かればすぐにできるようになるはずって」
「あの時のナイトをみてよくそう思ったな」
「うふふ、でもナイトはちゃんと戦えてるよ」
「ふっ・・・そうだな・・・」(私は甘くみすぎていたのかも知れんな・・・)
その間にも八岐大蛇の攻撃は止まず・・・その眼光は武器を持たないナイトに向けられていた。
「小賢しい小僧め!先に貴様から喰らってやる!」
そう言い放ち地面を滑るように近づいて来る・・・ナイトの目の前で頭を持ち上げた時だったその蛇の前に横から何かの影が飛び出してきた!。
「何!!!」
突然目の前に飛び出してきたのは他でも無いミオだった・・・。
「ミオ!?」(何で・・・)
「馬鹿め!血迷ったか!わざわざ喰われに来るとはな!」
そう言い顎を外し口を大きく開けた蛇の頭に向かって勢いよく地面を蹴り飛び上がったミオは蛇の頭を踏みつけそのまま胴体の方へと首を駆け上がって行き真ん中の頭に斬りかかったミオ。
しかし・・・それと同時にキーンという金属のような音が響き渡った・・・。
「!!!」(この頭だけ硬い!?)
硬い首に弾かれ落下していた時に斜め上から何かがミオの身体に激しく振り下ろされた。
飛ばされたミオは残っていた瓦礫の山に落下した・・・。
「!!!」
「ミオ!」
「!!」
「!!!・・・」(あの場所は・・・)
振り下ろされたのは、よくしなる大蛇の尻尾だった・・・。
「ミオ!大丈夫か!?」
瓦礫から立ち上がったミオに駆け寄ったナイト、ミオは脇腹を抑えながら。
「私は大丈夫・・・」
そう答えたミオの脇腹は出血し手は赤く染まっていた・・・背後に聳える折れた木片も只々その身を赤く染めている・・・
第4話 旋風の覚醒 後編(1)
「何処が大丈夫なんだ!」
しかし、それ程までの深傷を負っているにもかかわらず・・・。
「ナイト、敵に背中を見せるのは危険なの・・・」
「大丈夫だから・・・前を見て・・・」(ここで私が倒れるわけにはいかないの・・・)
そう言うとミオは再び静かに忍刀を構える・・・。
そして無論、大蛇が攻撃の手を緩める事はない。
「もう一度だけでも良い・・・俺に武器が出せれば・・・」
そんな様子を見ていたヴァンリートもまた、もどかしさを感じていた・・・。
「あの娘の精神力は何だ?一体どれ程の死戦を越え・・・生きればあんな事になる?」(だが、このまま戦いが長引けば・・・おそらくは失血死する)
「・・・、私とナイトの契約さえ成立すれば状況は変えられるかもしれないが・・・」(どうすれば・・・)
そんな思いを抱えていたヴァンの隣でうずうずしていたチェリーが近くを一瞬通った大蛇の頭に飛び移った!。
「さっき食い損なった鼠!」
「チェリー!」(・・・・食べられそうだったの?)
頭に飛び乗ったチェリーは暗器を大蛇の目に突き立てた。
「クシャー、目が」
「言い忘れてたけど私は鼠じゃなくてリスなの!」
「目ぐらいで騒ぐな」
「既に我の隣の頭はないぞ!」
チェリーを振り落とそうと激しく首を振り回しているがチェリーはしがみついて落ちる気配はない・・・。
そんなチェリーを見ていたヴァンリートもまたナイトの元へ飛び立った・・・。
「私は・・・見えるようになるまで何もせずにいるつもりだった・・・」
「そして何処かで諦めていた・・・人と共に歩める日は来ないと・・・だが」
「自ら動かなければ変わらない未来があるのかも知れないな・・・」
既にかわすので精一杯なミオ・・・。
そんなギリギリの状態で戦い続けているミオを見ていたナイトは共に戦う事のできない自分に苛立っていた・・・。
「俺にもっと力があれば・・・精霊と契約できるだけの力が・・・」
そう呟き拳を握った時だった、ナイトの周囲を激しい風が吹き荒れた。
「!!・・・これって」(まさか・・・)
「ほう、こんな形で契約できるとは・・・」(意思の共鳴というやつか?)
「契約・・・だと?」
ナイトは自らの目を疑った・・・先程まで何もいなかった場所に巨大な大鷲が現れたのだ。
「3本足の鷲?」(デカい・・・)
「ん?見えているのか?ならば問題はないな・・・」
あまりの事に状況を飲み込めないナイトにヴァンリートは言う。
「何をぼさっと立っている?早くしないと大切な友が死んでしまうぞ?」
その言葉に少し慌てた様子のナイト。
「私は・・・まだ死ぬつもりはない・・・」
噛みつこうとした蛇を斬り付けた後、膝をついたミオに蛇の口が迫る・・・
「・・・・・・」(目が霞む・・・)
ミオの体力はとうに限界を超えていた。
大蛇が噛みついたのは腕だった・・・
「!!?」
ミオの霞んで良く見えない目でも分かった・・・自分を庇いナイトが噛まれたことが・・・。
「なぜ・・・」
「風が邪魔で食いち切れなかったか・・・」
「風の防壁が無ければ腕を持っていかれていたぞ・・・」(全く・・・揃いも揃って無茶な連中だな・・・)
「自分を盾に小娘を護った?感動的な話だな!ならば2人一緒に我が腹の中で暮らすが良い・・・!」
「それは・・・」
「断る!」
ミオは残された力を振り絞り刀を構え、そしてナイトもまた風を纏った剣を具現化させた・・・。
「ナイト・・・真ん中の頭」
「あぁ、相当硬いみたいだな」
「・・・どうする?」
ナイトはミオの傷に視線を向けた・・・。
「取り敢えず・・・」(斬れるやつ全部・・・)
「斬る!」
「だけど・・・大丈夫なのか?傷・・・」
「大丈夫・・・まだやれる」(音が聞こえればまだ私は何とかなる・・・いや・・・やるしかない)
「ナイトこそ大丈夫なの?」
「俺は大丈夫、敵が少し怯んだからそこまで深くない」(少し痺れてる気がするけど・・・)
もはや2人の会話はほぼ意地の張り合いにしか見えない・・・。
「俺は上の方の頭を」
「助かる・・・」(これが最後のチャンス・・・)
2人は一瞬顔を見合わせ勢いよく駆け出した。
「何故だ・・・何故あれ程の傷を負っている人間がこの速さで動ける!!?」
「火事場の馬鹿力ってやつ?」
大蛇が困惑する間に2本の首を落とすミオ。
「お前らの敵は今は1人じゃない!」
そう言い素早く後方へ回り込み残りの首を切り落とす・・・。
最後に残ったのは、あの一番硬い中央の頭だった・・・。
「どうした?我の頭は落とさないのか?」
「いや、お前はここで倒す!・・・」(多分・・・これしかない)
剣を持ち大蛇の頭上に飛び上がったナイトは迎え撃とうと開けた口に思いっきり剣を投げ込んだ・・・。
「・・・中々いい作戦」(これは効くかも知れない)
「武器をわざわざ捨てるとは!?・・・?」
「お前が食べたことに意味があるんだよ」
「ほぉ」(この使い方は面白いな)
「例え外側の皮が硬くても内側の内臓まではそうそう硬くできないはず」
剣が纏っていた風が八岐大蛇の体を内側から切り裂きドサドサと音を立てて崩れ落ちた・・・。
だが喜んでいる余裕は一行には無かった。
ナイトが腕を押さえ座り込んでしまったのだ・・・。
「これは・・・先程の大蛇の毒か!?・・・」
第4話 旋風の覚醒 後編(2)
「かなり強い毒みたい」(私じゃ無理だ・・・)
そんなナイトの元へ傷を押さえながらミオが歩み寄る。
「ミオ・・・」(止めても聞かないだろうし・・・他に助ける方法もない・・・よね)
ナイトの隣で腰を落としたミオは静かに腕の傷に触れた・・・。
すると微かだがそこから光が溢れしばらくすると静かにその光は消えていき・・・そこにあったはずの傷も跡形もなく無くなっていた・・・。
「!!!」
「!!!」
腕の傷が完治したことを確認し安心したのかミオはそのまま意識を失ってしまった・・・。
「ミオッ!ミオッ!」
「出血が多い・・・ナイト!あっちの木の近くに運ぶの手伝って!」(止血しないと・・・)
ナイトが木の近くにミオを運ぶ間、チェリーもミオの傷に手を当て先程と同じように治療しているようだった・・・。
しばらくして・・・そこから少し離れた場所でナイト達が様子を気にしながら話をする姿があった・・・。
「まさか・・・癒しの力まで使えるとは・・・」(普通じゃないとしてもあの力は・・・)
「癒しの力?」
「さっきお前がやってもらったやつだ」
「あぁ、さっきの・・・か」
何となくナイトの表情が暗くなったのを感じたヴァンは慌てて話題を変えた。
「自己紹介がまだだったな、私はヴァンリートだ」
「象徴は嵐・・・」
「俺はナイト、ナイト・リュミエール」
「改めてよろしく頼むナイト・・・、で話は変わるんだが・・・あの八岐大蛇にトドメを刺したあれは思いつきか?」
「そうだけど・・・」
「だが、どうしてあれなら奴を倒せると?」
「ただ外側が硬くて切れないなら内側から・・・と思っただけだ」
「それで、触れたものを切り刻む風の剣を投げ込んだ・・・か」(見事にサイコロステーキになっていたな・・・)
そんな話をしている時だったチェリーが二人の元へやってきた。
「ミオは?」
「血は止まったよ、今は眠ってる」
眠っているミオの元へ向かったナイトは自分の着ていた上着を静かにかけた。
そうして戻ってきたナイトにヴァンが声をかける。
「お前も寝たほうがいいんじゃないか?」
「だけど・・・」
「敵が来ないか心配なんでしょ?でもそのことなら大丈夫、私達が見とくから」
「・・・・・・」(いいから寝ろ!)
「うっ・・・分かったよ」
ヴァンの無言の圧力に・・・負けた・・・。
その後、ナイトが寝たのを確認してからずっとヴァンとチェリーは寝ずの番をしていたようだ・・・。
「チェリー・・・1つ聞きたいことがある・・・」
「ん?何?」
「何故、ミオは癒しの力を使える?杖などの魔道具無しで使えるなど」
「それは・・・」
「使えるから使っている、その説明じゃ足りない?」
「!!」
「ミオ!まだ動かないほうが・・・」
「大丈夫、お陰で傷もだいぶ良い」(それでも最近・・・傷の治りが悪い・・・)
そう言うと自分にかけられていた上着をナイトにそっとかけ返した。
「そこまで言うなら・・・深くは聞かんが・・・」(しかし・・・そもそもあの力は人間の身では負担が大きすぎる・・・それほどの覚悟をして使っていると言うのか?)
ヴァンは意を決したようにミオに尋ねる。
「ならばミオ、もう1つ聞きたいことがある・・・」
「お前は・・・ナイトを置いていくつもりなのか?」
「!!!」
「そのつもり・・・」
「私といてもナイトにメリットはない、危険な目に遭うだけ・・・」(私は1人で良いの・・・)
「人は私を恐れる・・・きっと・・・いずれナイトも離れていく・・・」
「私と契約し、敵と戦える力を得た今・・・近くにいる必要もない・・・か?」
「ミオ、お前からすればそれがベストな判断なのかも知れない・・・だが」
「私から見れば今のナイトはお前がいなければ力の全てを出し切ることはできないように見える・・・」
「そんな状態で置いていけば・・・どうなるか」
「それは私の血のことを知らないから・・・」
「死を招く血のことか?」
「!・・・知っているなら引き止める理由はないでしょ・・・?」
「確かに厄介な性質だが・・・既に一度ナイトは奴らに狙われた・・・そうなった以上今後の戦いは避けようもないだろう」
「・・・必ずしも・・・敵は魔族ってわけじゃないの・・・」
「何も別にすぐに決める必要はないはずだ、それにお前の傷が癒えてからでも遅くはないだろう?」
「私ももう少しナイトの様子を見た方がいいと思う・・・」
「私は・・・」(どうすべきなんだろう・・・)
「分かった・・・私も少し考えてみる事にする」(明日まで・・・明日までで・・・)
そんなミオ達を日の出の薄明かりが照らしていた。