STORY
第3話 蒼月の咆哮 前編
ミオは目の前で起こったことが信じられなかったが、考えている余裕はない。やっとの思いで崖からナイトを引き上げ3人は緊張の糸が切れたようにその場に座り込んだ・・・
「死ぬかと思った・・・」
「死んだと思った・・・」
そんな2人を見てチェリーは少し安心したようにしている・・・。
「でも、よかった・・・2人とも生きてて・・・」
「私があのデカいトワイライトウルフを止められてたら、2人は危険な目に遭わなかった・・・私・・・守護精霊なのに・・・」
申し訳なさそうに耳を垂らし凹んでいるチェリーを見てミオはあっけらかんとした表情で言った。
「なんだ、そんな事か・・・別にそんなにチェリーが気にする事じゃないと思う」
「気にするよ」(普通・・・)
そんなチェリーにミオは橋を指差してながら。
「あの橋を渡ることを決めた時点で敵が来ることも分かっていたし・・・」
「危険があることも覚悟した上で渡った」
「それでも何かあったとしたら後方の敵全てをチェリーに押し付けた私に責任がある」
「ミオ〜・・・」
涙ぐんでうるうるしているチェリー・・・。
「何故泣くの?私は間違ったこと言ってないでしょ?・・・」(・・・ひょっとしてチェリーはまだ・・・自分の事を落ち零れだと・・・)
「チェリーは自分が止められなかったから私とナイトが危険な目に遭ったと言ったけど・・・」
「でもチェリーが敵の半分を引き受けてくれなかったら今の私たちは生きてないと私は思う」
今にも零れ落ちそうな涙を拭ってチェリーは笑った・・・。
「ありがとう・・・」
ミオはそんなチェリーを確認すると振り返りナイトに声をかける
「ナイト、ごめんなさい・・・私がもう少し敵の動きを見切れていれば・・・」
するとナイトはすかさず。
「それ以上の言葉は必要ない」
そう言って微笑んでいるナイトにミオは一瞬驚き、少し時間を置いて口を開いた。
「これだけは言わせて・・・」
「ありがとう・・・助けられた」
「それはお互い様だろ?」
「・・・」(やっぱり・・・この笑顔を・・・私は知っている気がする・・・)
「でも、よかった・・・」
「ミオが生きてて本当によかった・・・」
「・・・?」(なぜ人が、そこまで私の生死を気にするのか分からない・・・)
「俺を助けるためにミオが死んだとか・・・死んでも死にきれない・・・」
「・・・?」(そんなに気にするのか・・・)
「でも、ナイト」
「あんな剣どこに持っていたの?」(おそらく・・・あの感じは・・・)
「実は俺にもよく分からないんだけど・・・」
「ただ、どうにかして助けないとって思っただけなんだよな・・・」
それを聞いて戸惑ったように思わずミオは目を逸らす。
「そ・・・そう・・・」
「その後何があったの?」
「助けたい!そう思って手を伸ばした時に急に手元にあの風を纏った剣が現れたんだ・・・」
「その後のことは夢中だったから覚えてないけど」
「・・・」(あの剣何だったんだ?あの狼を刺してすぐ消えちまったし・・・)
話を聞いたミオはスッと立ち上がり周囲をキョロキョロと見回している。
「・・・」(あれは!やっぱりいた・・・だけど・・・)
「どうしたんだ?急に」
「あぁ、ごめん・・・ナイトが使った武器について考え事を」
「もしかして何か知ってるのか?」
「大雑把な感じでしか・・・」
「それで十分だからできれば教えてくれないか?」
「俺には分からない事ばっかりで」
「教えてあげたいのは山々だけど・・・」
「ナイトの村まで残りはどれくらいありそう?」
「あと少しのはずだけど・・・」
空を見上げ少し考えるミオ・・・。
「ここでのんびり説明してる時間は無さそう・・・」(橋での戦闘に時間をかけ過ぎた)
「じゃあ、走りながらでも」
「わかった」
「チェリー、行こう」
「うん!」
ミオはチェリーを肩に乗せると再び村への道を走りだす。
「・・・」(お願い・・・間に合って・・・これ以上人が大切な何かを失うのを・・・見たくない・・・)
「ミオ?」
思い詰めたような表情のミオにナイトが心配するように声をかけた。
ミオはナイトの声を聞くとハッと我に返ったようにナイトを見つめたあと思い出したように話を切り出す。
「あ・・・、剣の話よね」
「あ、あぁ・・・そう!」
「その話」(なんだろ・・・今の感じ・・・気にはなるけど・・・なんか聞けない)
「なんかあの剣ってミオが使ってたのに似てたような気がするんだよな、見た目じゃなくて雰囲気が」
「確かに似てる・・・って言うより似てて当然かもしれないね」
「当然って・・・何で・・・?」
「ナイトが使った剣はナイトが守護精霊の力を借りて造ったものだから」(でも普通はあんまりない・・・パターンだけど)
「守護精霊!?守護精霊ってチェリーみたいな感じのってことか?」
「・・・っているの?普通に?」(チェリー見た時変な生き物だと思ったし・・・ミオに特別にいるものだと・・・)
「守護精霊はいるよ、普通に・・・厳密に言えば精霊として・・・だけど」
「守護精霊ってもともと普通の精霊なのか?」(いや・・・精霊そのものが普通じゃないか・・・)
「特定の人間や他の精霊と契約したものを守護精霊と呼んでいるの」
「俺、契約とかそう言う感じのした覚えが・・・て言うより・・・」
「精霊ぽいの・・・まず見た事ない・・・」
「いや、それが普通・・・人間には見えないことも多いから」
「だけど、ナイトには護ってくれている精霊がいるのも確か」(そのお陰で私も助かった)
「そうなのか?だけど何で俺を護ってくれるんだ?」
「私達にも理由までは・・・」
「だけど契約が成立してなのに普通の人が武器が使えるなんて・・・聞いたことないよ」
「ミオは何か聞いたことある?」
「いや、私も聞いたことがない」
「仮契約状態で武器を具現化させるなんて・・・」(ナイトはいったい・・・)
「仮契約状態って・・・?」
「仮契約状態っていうのは、今のナイトみたいに契約していないのに精霊が護ってくれてる状態を仮契約状態って呼んでるんだよ」
「へぇー、でもどうして普通じゃないんだ?」
「仮契約状態はあくまで仮契約・・・だから精霊のできる守護の幅も契約している守護精霊に比べて狭いの」
「だから基本的には仮契約の精霊の力では武器を実体化させることは難しい」
「何となく・・・わかったような・・・」(分からないような・・・)
「聞き慣れない言葉ばかりだからそれが当たり前だと思うよ」
「・・・ナイト・・・もし・・・」
そうミオが何かを言いかけた時だった。
前方からバキッバキッという音があたりに響く。
「今のは!?」(村の方からだ)
第3話 蒼月の咆哮 中編
「何か木が折れる感じの音だった!」
「この感じは・・・」(間違いない・・・魔族だ)
「急ごう!」
「俺の村はこの道を突っ切って行ったすぐそこだ」
急ぎ、走る一行・・・その向かう先から何やら焦げ臭いにおいが漂いはじめ薄暗い日没の空が赤く染まっていく・・・。
そんな中、道を走り抜けた一行の目の前に広がったのは・・・。
人々が暮らしていたであろう家が無惨に壊され激しく燃え上がっている姿だった。
「そんな!?親父ー!」(間に合わなかったのか・・・?生きてるんなら返事してくれ!)
「ナイト・・・」
父親を呼び叫ぶナイト、するとバチバチと燃え盛る炎の中からヨロっとしながら人影が姿を表した。
それを見つけたナイトは人影に向かって駆け出した。
「親父!?」
炎の中に揺らめく影に違和感を覚えたミオ。
「あの影・・・あの腕は・・・!」
「あれは人間なんかじゃない・・・」
「ナイト!そいつに近づいちゃダメ!」
追いかけながら叫ぶミオの声にナイトもすぐさま足を止め後方に飛び退いたが相手の動きはそれ以上に速かった・・・。
ナイトの背後に回り込んだ影は足払いをかけ鋭い爪を首に突き付ける、その姿は先ほどまで人間の形をしていたとは思えないほど凶悪な姿だった。
「・・・」(まさか人の姿になれるとは・・・)
「小娘、さっきはよくも俺の腕を切り落としてくれたナァ!」
「悪いんだけど・・・もう少し大きな声で言って貰えないかな?遠くて聞こえないんだよね・・・」
「・・・」(すでに鼓膜破けそう・・・)
「そもそも小娘・・・って誰のこと?」
「お前普通に聴こえてるじゃねぇか!小娘がコケにしやがって!」
「魔族の力が馴染んで知能を取り戻したみたいね・・・」
「残念だったなァ・・・、このガキの自分の親が目の前で殺され絶望する顔を見るのが楽しみだったのによォ・・・」
「あまりに遅いから先に殺しちまったじゃねぇかァ」
「・・・・・・!」
その言葉に思わず刀を構えようとしたミオ、それを遮るように低く澱んだ声が響く。
「武器を出したら、その瞬間にこのガキの命はないぞ!」
「言語能力より心の痛みを取り戻して欲しかったけど・・・」
「貴方達も相変わらずね・・・」
「人間から変異した者なら少しくらい人の心も残っているかもと思っていたけど・・・私が甘かったみたい」
「ミオ、後ろ・・・」
チェリーが声を震わせ見つめる先には4体の魔族が迫っていた。
「わかってる・・・」
「それにしても人の心がなくても仲間ってできるんだ・・・」
「小娘!お前は我が主が直々に始末したいから連れてこいと言われている・・・一緒にきてもっッ!」
「よく喋る魔族ね・・・」(でもお陰で隙が多い・・・!)
魔族が喋る時僅かだがナイトに視線を落とす、その一瞬の隙にミオは魔族の顔面に目掛け無数の手裏剣を打っていたのだ。
その全てを間一髪のところで爪を使い防いだ魔族だが一息つく間も無く驚きの光景を目の当たりにする。
ミオは手にしていた巨大な手裏剣を何と自らの頭上へ放り投げたのだ、その予想外の動きに思わずその場の空気が止まった・・・。
「あの小娘!いったい何を!」
「甘い・・・!」
その言葉が背後から聞こえ振り返ろうとした魔族の腹部に衝撃が走る。
「何ッ」
素早く回り込んだミオはその勢いを利用し魔族の体を前方へ蹴り飛ばした・・・。
跳ね飛ばされた魔族の耳に風をきる何かの音が聞こえてくる・・・。
「そんな・・・ば」
「私の武器、手を離してから僅かな間だけど遠隔で落下位置を調整できるの・・・」
ドスっという音が響く・・・横たわる魔族に降ってきたのはミオが先ほど頭上に放り投げた巨大な手裏剣だった
「せめて・・・貴方の腕がもう1本残っていれば結果は変わっていたかもしれない・・・だけど」
「今度来るときは何を敵に回しているか主人とやらにちゃんと聞いてくる事ね・・・」
そう呟いたミオはナイトに手を差し伸べた。
「立てる?」
「あぁ、ありがとう」
「ナイト、私の後ろに!」
「俺にも何か・・・」
「普通の人では魔族と戦うのは無理」(とはいえ・・・1人で4体同時は流石に厳しい・・・)
チェリーもミオの元にやってきたが状況が厳しいことに変わりはなかった・・・。
そんな時だった・・・ミオとチェリーは何かの気配を感じとる。
「何か近づいてくる?」
「な、敵か?」
「確かに闇の気配だけど・・・魔族じゃない」(この雰囲気は・・・)
そんな3人に1体の魔族がジリジリと迫ってくる、それに合わせるように残りの魔族達も動き出した。
武器を構えるミオ達に1体の魔族が飛びかかった瞬間だった。
「グォォォ」
ドスンっという音と共に物凄い風圧が吹き荒れ身構えた3人が再び視線をそちらに向けるとその視界は紫に染まっていた・・・。
第3話 蒼月の咆哮 後編
「ガルルル・・・」
飛びかかって来たはずの魔族は巨大な紫のドラゴンに前足で踏み潰されている・・・。
「!」(この気配はさっきの・・・)
「ドラゴンだと・・・こんな所に生息しているなど聞いていないぞ!」
突然の乱入に慌てふためく魔族達に落ち着き払った声が響く。
「少々長かったが・・・辞世の句は読み終えたか?」
そう言うと紫のドラゴンは巨大な口を開き3体の魔族を白く激しい炎で跡形もなく焼き尽くした・・・。
「すごい火力・・・」
「・・・」(ドラゴンなんて初めて見た・・・)
痛みにすら感じる熱気が辺りを包んでいる・・・。
炎で焼き尽くしたドラゴンはミオに視線を向けた。
「久しいな・・・」(あの時よりは・・・強くなったようだが・・・)
「??・・・」(久しい・・・?)
「やはり・・・覚えてはおらぬか・・・」
「いや、気にしなくてよい・・・」
「我が名はシェイド・・・」
「単刀直入に言おう・・・、我と契約しては貰えぬか?」
「!・・・何故?」(ドラゴンが・・・)
「私に?貴方ほどの力を持つ者であればもっと力のある存在と契約もできるはず・・・でしょ?」
「・・・」(だけど・・・この感じ・・・何となく似ている・・・何かに)
「では逆に問おう・・・、何故其方は今、人間として生きている?」
「・・・!」(それってどういう・・・)
「!・・・」(このドラゴン一体何を知ってるの・・・)
「!!・・・」
「・・・申し訳ないんだけど・・・何の事を言ってるか分からない」
「そうか・・・付かぬことを聞いたな・・・」
ミオは申し訳なさそうに言葉を続ける。
「私を選んでくれたことにすごく感謝してる・・・だけど私はここにいるチェリーと既に契約している」
「だから・・・貴方と契約することはできない・・・」
シェイドは暫く目を瞑り沈黙したのちに口を開いた。
「掟か・・・ならば我から言えることはない」
「だが・・・其方の中に宿る闇の力の気配を感じ取れるはず・・・いかなる時も気を抜かぬ方がよかろう・・・」
そんな意味深な言葉を残しシェイドはその場を飛び去ってしまった・・・
「何だったんだろう・・・」
「ごめん・・・私にも分からない・・・」
そんな命がけの戦いをようやく終えた3人は周りを見渡し再び現実を認識させられた。
「・・・」(親父・・・)
ナイトは父親と日々を過ごしたであろう家の瓦礫の前にしゃがみ込んだ・・・。
「そうだよね、ナイトのお父さんも・・・この村の人たちもみんな・・・死んでしまったんだよね・・・」
「死んだんじゃない・・・殺されたの・・・」
ミオとチェリーは少し離れた場所からナイトを見ていた・・・。
しばらくして近づき声をかけようとしたミオだったが音もなくただ頬を伝う涙にかける言葉が見つからなかったのだ・・・するとナイトはゆっくり立ち上がり瓦礫を見つめたまま話す。
「俺・・・、親父の本当の子供じゃないんだ・・・」
「・・・!?」(そうなの・・・?)
「2年前・・・道で倒れてた俺を親父が助けてくれたらしい・・・」
「・・・!?」(今・・・2年前・・・って)
「それから、怪我が治って元気になってからも・・・ずっといればいいって家に置いてくれてたんだ・・・」
「今までの感謝も込めて今日は飯でも作ってやるって約束して・・・」
「今日、親父の誕生日だったんだ・・・だから・・・なのに・・・」
「俺は・・・、まだ何一つ・・・恩を返せてないのに・・・」
「・・・」(そんな・・・)
ミオはさらに何と声をかけていいのか分からなくなった・・・。
どんな言葉も慰めにすらなる気がしなかったのだ・・・。
そんなミオにナイトは流れる涙を拭い振り返り尋ねる。
「俺もミオみたいに魔族達と戦えるようになれるかな・・・?」
「・・・!」
「今度こそ自分が大切だと思うものをこの手で守りたい・・・そのために俺は強くなりたい、だから・・・」
ナイトの握られた拳からは少し血がうっすらと滲んでいた・・・。
「気持ちはわかった・・・私が教えられる事は教える・・・だけど」
「わかってる・・・」(簡単じゃないことも・・・それでも逃げ出したりはしない・・・何があっても)
「明日は朝から村の人を瓦礫の中から捜しださないと」
「話はそれから・・・」
静かにナイトは頷いた・・・
「わかった・・・俺、明日に備えてもう寝るよ・・・」(皆・・・ちゃんと見つけるからな)
「ミオ・・・ありがとな・・・」
振り返りそう言ったナイトの笑顔は今までと違いとても悲しげに写った。
眠っているナイトから離れた場所でミオに小声で話しかけるチェリー・・・。
「ミオ・・・いいの?」
「何が?」
「いや・・・今まで人と関わるの避けてたから・・・」
「心配してくれてたの?ありがと」
「だけど・・・今日みたいなことを繰り返さないためにも」
「ナイトが生き残るためにも強くならなくちゃいけないのは確か」
「今のままだといつか魔族達に殺されてしまうかも知れない」
「・・・」
「・・・ナイトなら強くなれそうな気がする」
「!!!?」(気絶してるイメージが強いんだけど・・・)
「でも・・・どうして」(ミオがそんなこと言うなんて・・・)
「まぁ、最初は確かに気絶してたかも知れないけど・・・ここに来るまでに信じられないスピードで成長してる・・・それは間違いない」
「ここに来てからも凄く危険で大変な状況でも気絶なんかしてなかったでしょ・・・」
「それに・・・今も1人で闘ってるの・・・目を背けたくなるような現実と・・・」
「現実と・・・」(闘う?)
「・・・守るべき約束も思い出したしね・・・」
「約束って・・・??」
「さてね・・・取り敢えず明日は早いだろうから私たちも早く寝よう・・・」
静かな夜の森の中・・・ナイトの声にならない苦しみをミオは強く感じていた・・・。