STORY
PROLOGUE
これは一つの死から生まれた物語・・・
人間にとって死とは終わりを告げるモノ
だが生は死の始まりであり、死は生の始まり
なぜ人は産まれるのか、その答えを知るものはもういない・・・
人はなぜ、生きまた死に行くのか
それは私にもわからない・・・
だからこそ・・・
私はこの物語を紡ぐ、
自らの生まれた理由を知るために。
大切な友と過ごした日々を・・・失わないために・・・。
第1話 希望と絶望の狭間
私はなぜこの世界に産まれてしまったのか、そんな疑問を感じることは日常茶飯事、自分が正しいと思った事すら今では間違っていたのかもしれないと思う。人間は知能とともに急激に文明を発展させた種だ、しかし人間が増えるたびに憎しみや悲しみと言う名の負の力が世界に満ち、その負はさらに大きな不幸を呼びよせていった。結果は最悪の結末・・・捕食者の襲来を招いた、この捕食者とは魔族の事だ。
「人間にとっては私も呼び寄せた不幸の1つかも」
「ミオ?どうしたの?悩み事?」
顔を覗き込むように話しかけてきたのはチェリーだった。
「ちょっと考え事・・・」(魔族が来なくても人は滅びるかもしれないけど)
2人が歩いているのは光と風の森、木々の隙間から優しい光が絶えず差し込む穏やかな森だ、風に揺られ木々は葉を揺らし踊っている。
「ここはいい風が吹く、木々も落ち着いているし・・・」
そう言いながら木に手を置いた瞬間、ミオの表情が曇った。
「・・・この森にもすでに闇が巣くっているのね・・・」(近い?でもここに来るまで気が付かなかった・・・)
「距離はそこそこみたいだけど走ればすぐだよ!」
「急ごう!嫌な予感がする」(魔族以外に気配が)
「予感って?・・・そりゃ急いだ方がいいよね」(予感じゃなくてそれ確信でしょ)
2人は気配の方へ勢いよく駆け出した。 時を同じくして1人の少年が危機に直面していた・・・。
「爺さんどうしたんだよ!一体何に襲われたらそんな傷が・・・」(熊か?それにしては・・・)
駆け寄る少年に血まみれの老人が今にも消えそうな声を振り絞り叫ぶ。
「そこの若いの・・・今すぐここから逃げるんじゃ・・・」
「そんな!怪我人を置いて行けるわけないだろ」
そう言った次の瞬間、少年の目の前にドサッと何かが落下した・・・彼には何が起こったのかすら理解できなかった・・・恐らくそれは老人も同じだったであろう。落ちてきたのは他でもない・・・先ほどまで視界に捉えていたはずの老人の変わり果てた姿だった。
「うあぁぁぁぁぁ!!!」
衝撃のあまり思わず声を上げた少年はすぐに口を抑えた、自分の置かれている状況を考えたのだ。
「・・・・」(この人を殺った奴が近くに隠れてる・・・)
気配も感じられず根拠は無い、だが彼はそれを感じ取った。ゆっくりと腰にさした短剣に手を伸ばした彼の後ろに突然黒い影が差し、思わず息を飲む。近づくたびに大きくなる黒い影に恐怖を感じながら彼は握り締めた短剣を振り向きざまに振りぬいた。
「なっ・・・!」(なんだ、コイツ!?)
彼は言葉を失った、その影の主は人間でも魔獣でもないものだった。鋭い爪により砕かれた短剣の欠片が頬を掠る、振りかざされた爪に絶望すら感じた時に彼の体を激しい風が突き飛ばした。まるで腹部を思い切りハンマーで殴られたような感覚だ、 後方に大きく飛ばされた彼はそのまま気を失ってしまったようだ。そんな彼に一歩また一歩と近づく絶望の影、気を失った彼の頭を掴み宙に掲げ握りつぶそうとしたその時だった。
「グォォォォー」
空気を揺らすような叫び声とともに、少年を掴んでいた化け物の腕が宙を舞った。
「血が出るとはね・・・」(元は人間か、見たところ話はもう通じないようだけど)
ふわりと着地したミオは冷たい目で化け物を見詰めた。
「変異種・・・」
「もう助からないなら、斬るしかない・・・」
遠慮の欠片もなく追撃を加えようとしたミオを前に怪物は血を流しながら走りさる。
「逃げたか・・・」
「そりゃ逃げるよ・・・どんなバカでも・・・」(特に魔族に対しては無慈悲だし)
「逃がすわけにはいかない・・・私は後を追う」(変異種は特に人を襲う奴が多い)
「じゃあ、私も一緒に・・・」
「チェリーはその人についてて、他の魔族が来たら大変だから」
「えー・・・って・・・もういない!」(返事聞いてってよ!)
「・・・・・・」(イヤ)
「テレパシーで言うんじゃない!!!」
置いて行かれたチェリーは少しいじけながら少年の近くをうろうろいている。丁度その頃、魔族を追っていたミオはある問題に直面していた。
「魔族の気配が・・・分散した!?」(これじゃ、一つを追えない)
「チェリーとのテレパシーの通じない領域まできてしまったし・・・」(一度戻ろう、さっきの人の事も気になるし・・・頭の骨砕けてないと良いけど)
今にも握りつぶされそうだった少年の姿が目に浮び、少しの不安がよぎる。
「それにしても、あの魔族・・・手負いの割に速いな・・・」
しばらくして・・・。
「遅―い!」
「何かあったのかなぁ・・・いつもならもう帰ってきてるはずの時間だし・・・」
そわそわするチェリーに聞き覚えのある声が届く。
「その心配には及ばない」(まだ起きてないのか・・・)
「どうなったかはテレパシーでもいいから教えてよ・・・」
「テレパシー、ダメって言ってなかった?」
「状況が違うでしょ!」
そう言いながら頭をポコポコと叩くチェリーを全く気にする様子もなくミオは少年を見つめている。
「それより、その人まだ目を覚ましてないの・・・?」
「それよりって・・・まあ、いいや・・・」
「死んでないよね?」(この人の顔どっかで・・・)
少年の顔をミオがそっと覗きこんだミオの目の前で少年のまぶたがゆっくり開いた。
「あっ・・・!?」
ミオが声を発した瞬間、驚いて飛び起きた少年と頭をぶつけゴツンと鈍い音がした。
「ちょっと痛いかも」
おでこを押えながらつぶやくミオに少年は片目を押えながらあわてて謝った。
「ご、ごめん、大丈夫だったか?」
「私は大丈夫、頭の骨が砕けてないみたいでよかった」
眉をひそめ頭を抱えながら少年は呟く。
「俺、変な夢でも見たのかな・・・見たこともない黒いやつが・・・」
「残念だけど夢じゃない、現実よ・・・」
「あれが証拠」
指をさした先には魔族の腕が落ちていた。
「腕・・・、間違いないあの腕は・・・」(夢じゃないんだな・・・)
「・・・もう一つ疑問が・・・あの腕を切り落としたのは君?」
「えっ・・・、あれは・・・たまたま当たり所が良くて切れちゃっただけで・・・」
「いや・・・いつも普通に切ってるじゃん・・・」
そう突っ込んだチェリーを彼は思わず見つめる。
「変なのが喋った!?」
「変なのって!」
騒いでいるチェリーを気にする様子もなく・・・。
「彼女はチェリー、私の友達なの」
「状況を理解できる要素がない・・・」
「そりゃ、無理もない」(普通の人間は無縁だものね、こういうの)
「でも、助けてもらったって事だけは理解した」
「ありがとな、助けてくれて」
そういい彼は少し照れくさそうに笑った。
「へっ?・・・」(お、お礼!?・・・お礼なんて人間に初めて言われた・・・)
「そういえば、聞いてもいいか?名前」
「何で・・・?」
「何でって・・・、命の恩人の名前ぐらい知っときたいだろ?普通・・・」
「私はミオ・・・、ミオ・フローラ」(・・・そういうものなのか)
「俺はナイト、ナイト・リュミエールだ」
「よろしくな、ミオ」
「宜しく・・・?」(いや、宜しくとかしてる場合じゃない・・・)
思わず口ごもるミオ、それは一瞬ではあったが彼女の頭にある記憶がよみがえった。私はまた罪のない人間を死なせる気か・・・生きてたんだし、もう関わるべきじゃない・・・そんな自分の声が聞こえた気がした。